ss<toa,tov>

□気にするなって言ってよ 
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前来たときとほとんど変わらぬ殺風景の部屋。そこに見慣れない箱があった。隠してあるようにそっとしまわれていたのは
「あ」
ガチャ
ドアがひらくと同時に箱から離れた。
「どうしたの?」
「ううん何でもない。ごめんね突然来て」
「気にしないで。久しぶりに会えて嬉しいもの。」
「ん、今度来るときはお菓子でももってくるよ。新しいレシピ増えたからさ。ティアの好きなりんごを使ったお菓子なんだ。」



あれってルークから貰ったものだよね。
セレニアがモチーフになった髪飾りも、チーグルのぬいぐるみも。きっと他のもそうだ。ルークがお店の前で悩んでて相談にのったことあったし。
「ルーク、か。」
ルークが消えて二年。彼、アッシュが帰ってきてさらに一年。
「馬鹿だな」
私もティアも、一緒に旅した仲間はみんな。
何年たっても彼の帰りを待つのだろう。そう思うと胸の奥がひそかに痛んだけど三年前ほどじゃなくなった。気長に待てばいいと思えるようになったからかもしれない。
でもこの間見たティアの部屋は…
「わっぷ」
向こうから歩いてきた誰かとぶつかった。
「ちゃんと前を向いて歩いて欲しいものですね。」
「すみません。」
あわてて頭を下げると向かいから声を押し殺した笑いが聞こえてきた。視線を上げると見えてきたのは青い軍服。
「た、大佐?!」
「お久しぶりです。」

「こっちくるなら前もって教えてくださいよ。そうしたらもっといい紅茶買っておくのに」
「今回は急な用事だったものですから。」
淹れたての紅茶にダアトで人気のケーキ。
「私をだしに経費でおいしいものを食べようとするのは関心しません。」
「大佐だって食べてるんですから共犯ですよう。」
「それにしてもここにケーキ屋ができるとは。時間の流れを感じますね。」
「アニスちゃんもナイスバディな大人の女性になりましたし。」
「私も年ですかね耳が悪くなってしまったようです。なにか言いましたか?まだまだお子様な幼児体型のアニスさん。」
「あははは。新しい秘奥義の練習台になってくれますか?

「謹んで遠慮しておきます。」
静かな室内で目を合わせて、二人とも小さく笑みをこぼした。
時計の音と鳥の声、穏やかな時間。
「なんか本当に変わってない気がする。」
「いえいえちゃーんと成長していますよ。私もあなたも。」
「大佐が言うとなんかいやらしいですう。」
「アニース。」
「うん確かに変わったよね。だって」
窓から見える空は夕焼けで、ルークと別れたのもこんな空だった。
「大佐はフォミクリーに向き合うようになって、私たちのこと友達だって思ってくれるようになったもんね。ガイも貴族としてお家復興のために奮闘してるし。」
「仕事といえばブウサギの世話と外交ぐらいですが、女性限定の。」
「かわいそー」
「ちなみに今度お見合いをするんですよ。」
「うっそー!」
「嘘です。」
夕焼け空はだんだんと夜の色に変わっていく。
「そろそろ時間ですね。お邪魔しました。」
「え、もうですか?」
「急なことでしたから、向こうに仕事がたまっているんです。」
「准将もたいへーん。」
「まだ大佐ですよ。今度来るときはアニスお手製のケーキを楽しみにしています。」
「そのときは前もって連絡くださいね。」
「もちろんです。」
教会の鐘がなって驚いた鳩がとんでいく。消えていく夕焼け空に。
「またこうやって話せるようになるといいですね。」
誰がとは言わなかった。でもきっとティアか、ルークのことなんだろう。早くティアがこうやってルークの話題を話せるようになればいい。
そしてルークが帰ってきて皆で話ができたらいい。
そのためにも
「大佐、お願いがあるんです。」


「出来る限りの事はしてみますが期待しないでください。」
「大丈夫ですよ。大佐がいうなら説得力ありますから。」
「そう、ですね。」
「?」
「いえ、では今度ユリアシティに行くときにでも会いに行ってみます。」
「お願いします。」
「ではまた」
「うんまたね大佐。」







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