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□なんと呼ぼうか
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『夜、こんな姿になっちまうんだな。』
「若…」
じゃり
「それ以上歩くなよ。傷口が開くだろうが。」
「大丈夫です、すぐ治りますから。」
「んなわけ…」
「鞄の中の氷があればすぐ」
じゃりっじゃりっと足を引きずりオレの方へ近づいてくる。
いつもと違う彼女にオレは動けないでいた。
「そんな顔をなさらないでください。」
今にも消えてしまいそうな姿で、昔と同じ言葉に姉のような笑みを浮かべる。
「私は妖怪であなたの側近です。そんなにやわではないですよ。リクオ様こそお怪我をされているでしょう?」
妖怪だという彼女から流れ出るのは人と変わらぬ真っ赤な血。
「いま手当てしますから。」
瞬間ふらりとバランスを崩した彼女を抱き止める。
「オレだって今は妖怪なんだよ!」
お前と同じなんだ。
いつの間にか夜の姿なっていた。
「リクオ様…」
「自分の側近の心配ぐらいさせろよな。」
彼女を木の根が突き出たところへ座らせる。
「で、どうすりゃいい?」
「あの、リクオ様。自分でできますから、その」
先程まで大人しく抱き上げられていたつららだったが、主にこれ以上迷惑はかけられないとリクオを押し返す。しかしその手は空を切った。
「どこ見てんだよ。意識が朦朧としてんのに自分でできるわけないだろ。」
しゅんとしたがそれでもまだ納得がいかない様子で、まったく往生際が悪い。
「氷を傷口にあててもらえればなおるはずです。お願い、できますか?」
「おう。…少し脚開け」
「…はい。」
裾をめくり、傷に触れぬよう注意して足袋を脱がす。血で更に白さが引き立った肌が露になる。
綺麗だと思ってしまった。
「そんなに見ないでください、若。」
羞恥に彩られた表情も、息荒く上下する胸元も、はだけられた裾から伸びる脚も、いつもの彼女からはうかがえない妖艶さにも、その全てに心を奪われた。
「若?」
同時に怒りを覚えた。
守れなかった自分と怪我を負わせたアイツに。
「っ、やっ」
かしづくように足をもち、舌をはわせる。血を舐めとり、傷口を吸おうとした。
「あっ熱いです。火傷してしま、んっ。」
「やんねぇと化膿するかもしれねぇぞ。」
とはいえ火傷されては困る。…なんでオレが困るんだ?
ふと気づいた疑問はあたまの隅へ追いやり、どうしたものかと考える。
視界にはいった袋から氷を一つ掴み口へほおった。バリバリと氷を噛み砕き口内を冷やす。そしてまた傷口を吸う。
「これでそこまで熱くねぇだろ。」
「はい。でも」
頭を力の入らない手で押さえられる。
見上げれば涙をこぼさんばかりの目でうったえられる。
「恥ずかしいですよぅ。」
ゾクリとした感覚に襲われる。この顔をもっとみていたい。
仕上げに強く吸い上げた。
「んんっ。」
「氷を傷口に当てればいいんだよな?」
にやりと口の端をあげ、袋から氷を取り出す。氷は傷口にではなくまたリクオの口内に運ばれ、ガリっガリっと砕かれる。
それをどこか遠くのことを見るようにつららは見ていた。
氷を含んだまま傷口に唇を押し当て、舌を使い口の隙間から少しづつ氷を傷の中へ流し込んでいく。
流し込まれた氷は一瞬にして雪女の体に取り込まれていった。
流し込む氷がなくなれば、氷を口に含み砕きそしてまた流し込んでいく。
それは傷口が完全に塞がれるまで続いた。
「ほかにも怪我してるところがあるだろ?みせてみな、手当てしてやるよ。」
彼女とおなじように冷えきった唇で舌で
「なぁつらら。」
名前を呼ぶ。
大切な側近の名前を。
この気持ちをなんて呼べばいいのか、ぼくはその答えをまだ知らない。
 ̄ ̄ ̄ ̄終
〈あとがき〉
なんか突発的に書きたくなった。
〔つららの足を(しかも指)舐める変態夜若〕
私が脚フェチなのか、それとも愛ゆえか。
本当は昼若つららでねたがあるからそっちを書こうとしたんだけどなー
夜若はつららに恋してるってわかってるけど、昼若はきづいてない、そんな設定がありました。
読んでいただいてありがとうございました!