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□シューピアリア
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俺は勇者でお前は魔王。俺は人でお前はモンスター。俺は雄でお前は雌。もとをたどれば同じ生き物なのにな。
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「シーラ!」
名前を読んだのは久しぶりだ。
最後にその名前を口にしたのはいつだったか。
―今まで嘘をついてたのか・・・?シーラ、お前が魔王なのか。
お前が魔王だと知ったあの日からだ。
あの時お前はどんな顔をしていたんだ?俺は自分のことばかり考えていて、お前のことを見ていなかった。
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もう日が沈む。この森はこんなにも薄暗い場所だっただろうか。この季節はまだ明るかったはずなのに。
「綺麗だにゃー。アンジェリカ達もみてるかな。」
赤い目に朱色の空を映してシーラは言った。
自然にたいして’綺麗’だと言葉を残せるのに、どうして?
どうしてお前が魔王なんだ。村や町が滅ぶこと、人が死ぬことの意味を知らないような魔王なんだ。
「勇者?」
シーラが不思議そうな顔をしてこっちを見ていた。
そんな顔をしないでくれ。俺はお前を殺さなければいけないのだから。
指のつめが手のひらにくいこむ。
「ああ、すまない。行こうか。」
「まったく。勇者がどうしてもって言うから、歩いてるのに。」
文句を言いつつもシーラは俺の後をついてくる。
「あと少しでつくから。」
そう、あと少しですべてが終わる。俺の思いも、お前の嘘も。
■
空はもう明るさを失った。とはいえ群青色が上空をうめつくしているだけだ。
足元に気をつけながら森の奥へ進んでいく。
「楽しみにゃ。勇者の村はどんなところなんだ?」
魔王が滅ぼした村だよ。
「・・・何度おなじことを言わせるんだ?着いてからの楽しみにとっておきなさい。」
「けちにゃ。!」
気付くとシーラの気配がない。振り向くとシーラの姿はなかった。
もしや魔王だと疑っているのに気づいて逃げたか。黒い髪に、黒い服のシーラはこの暗がりのなかでは見つかりにくい。攻撃されでもしたら不利だ。
剣に手をかけ、色々な思考をめぐらせる。
―逃げたのであればいいのに。
一瞬そう思ったことを後悔する。おれは勇者なのだから、魔王(おまえ)を殺さなければならない。お前に生きていて欲しいと望んではいけないんだ。
「とうっ」
え?
上を見上げると大きなものが降ってき・・・・。
音が静かな森に響く。木に止まっていたであろう鳥があわてて飛びたった。
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あたたかい
あかるい
母さんも父さんもカラムのおばちゃん、皆
しあわせそうに笑ってた
生きていたんだ
なのに
お前が、魔王が、すべて潰してしまった。
幼い少女はいった。
― 人を救いたいのなら私を殺せ
少女がシーラとかぶり、そして言う。
―おまえが好きにゃ
俺は魔王を倒す。覚悟を決めた時は思いもしなかった。こんなにも痛みを伴うなんて。
ココロに鈍い痛みがはしる。後頭部にも。
・・・後頭部にも?
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ぼやけた視界に淡いひかりが差し込む。
さっきまで森のなかにいたんじゃなかったか。それに、こんなにも明るかっただろうか。
視界がはっきりしてくると共に記憶もはっきりとしてきた。
「勇者?」
シーラが俺を上からみおろしている。
「よかった。このまま起きなかったらどうしようかと思った。」
黒い髪が顔に触れる。声が近い。
「まったく。ちゃんと受け止めてくれれば怪我しなくてすんだのににゃ。まさか勇者が気づいてないとは。」
はじめ泣きそうだったシーラの表情がころころかわる。
「勇者失格にゃ!」
シーラの話しから推測するに、シーラが俺の上に落ちてきたようだ。謝りもしないあたりがシーラらしい。
シーラを受け止め損ねて、後頭部をうったのか少し痛い。
そういえば土の上に頭を置いているはずなのに、あたたかく柔らかく感じる。それにシーラの顔が真上にある。しかも近い。もしかして膝枕?
「勇者?顔が赤いぞ。」
「あ、いや。」
「おきな〜。」
弁明をしようとしたら頭の下から声が。
体をおこし、恐る恐る下を見ると。
「ちょうど良いところにいたから、枕にしたにゃ。」
「元の場所に返してきなさい!!」
下敷きになったモンスター翁を森へ送り出す。振り返ってなにか言ったが、わからない。翻訳係のシーラを見たが表情は見えなかった。
「うるさいにゃぁ。」
−―――――――
翁に気をとられていたが、森が目の前に広がっているということは。
「!」
背後には人のいない村があった。日の落ちた闇の中で月がてらしていた。
「シーラ。」
なんだ?とこちらに振り返り。
「もしかしてあそこか?勇者の村は。」
「・・・・ああ。」
そのまま村へおりる。
その間、シーラも俺もなにもしゃべらなかった。
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