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□おうちにかえろう
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『おうちに帰ろう』
がたん がたん
電車から降りると薄く夕焼け色に染まる空がひろがっていた。
駅から離れた今でもまだ明るい。
「すこし日が長くなってなってきましたね。」
「そうだねー。そろそろ夏も近いってことかな。」
「ええ、妖怪の本領発揮の時期ですよ、リクオ様。」
「あはは。でもつららにとってはつらい時期でもあるよね。」
並んでいた影が少しづつ離れていった。
「…つらら?」
振り向くのと同時に、きゅ、と学ランの裾を引っ張られる。
「…」
ふいたままの彼女と何も言えずにいる僕。
こくこくと空は綺麗な夕焼け色へ染まっていく。伸びる二つの影はいつのまにか重なっていった。
「すみません、なんでもありません。早くおうちに帰らないとだめですね。」
歩き出す彼女の手を今度は僕が取る。
「ちゃんと言わないとわからないよ。」
僕の横を通り過ぎたときにみえた顔は今にも泣きそうだったじゃないか。
それなのになんでもないって言うの?
問う代わりに、無理やりこちらに向かせ、ふいた彼女の瞳をしたから覗き込む。
「みちゃだめです。」
目からは今にも涙があふれそうで、声を抑えるために口はぎゅっと一文字にしていた。
真っ白になった頭で、知らず知らずのうちに手が伸びる。あふれ出てきた涙を抑えるために。
嗚咽を抑え、とぎれとぎれに話し始める。
いいますから、見ないでください。
オレンジ色に染まったそらのせいか、それとも…つららの肌は赤い。
「…置いて、行かないでください。役立たずなんて思わないで。ちゃんとあなたを守って見せます。わたしがあなたの側近なんです。」
ああもう君は。
日は沈み、影は溶けていった。
「そんなこと思ってないからそんな顔しないでよ。ただつららが無理して倒れないかしぱいだってだけだから。」
闇、妖怪の時間。
「そうだぜ。馬鹿だな、お前はちゃんと俺の百鬼夜行の一員で大事な側近なんだからよ。」
夜のおとずれとともに意識は入れ替わる。
それでも思いまでは入れ替わらない。
「弱気のお前なんてらしくないぜ?」
溶けた影は混ざり合い、なお重なり合う。
白い彼女を夜の俺が抱きしめる。
「今日は寄り道していくか、なぁつらら。」
「…だめです。」
笑った彼女
「おうちに帰りましょう!」
―――終
[あとがき]
書きたかった話と方向がずれました。
読んでいただいてありがとうございました。