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□過去現在未来の計算式@
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『放課後+猫=現在』



「うわぁぁあ!?」

持っていた荷物がばらばらと地面に落ちていく。

「やっと見つけましたよリクオ様。」

ひんやりとした、でも柔らかい感触を背中に感じた。

「教室にいらっしゃらないからびっくりしました。」

「だからって…」

後ろから抱きつくことはないと思うんだけど。こっちがびっくりしたよ。
とは言わない。いなくなった僕を見つけたときはいつもこうだから。

「ごめんね。戻る前に用事頼まれちゃってさ。」

「まったく、心配したんですからね。」

「はいはい。」

つららの腕をほどいて彼女を盗み見たけど、いつもと変わらない。本当に抱きつくことに意味なんてないんだろうな。
ほんの少し、感じるか感じないか程度の痛みが胸に走った。

「あとはこれ届けたらおわりだからさ。さっさと終わらせて帰ろうか。」

「なぁー」

「え?」

つららの代わりに足元から返事が返ってきた。
ロシアンブルーみたいな毛色の猫が落とした預かり物、しかも食べ物を漁っている。

せっかくきれいな猫なのに色々台無しだなー……って!


「ああっだめだよ、それは預かりものなんだから。」

いまだ袋を開けようとしている猫を拾い上げると、案外大人しく抱き上げられた。
なーなー、と抗議の声はあげていたけれど。
猫が漁っていたものをすばやくつららが拾い集める。

「これで全部ですか?リクオさ、リクオくん」

「ぶっ」

なんで笑うんですかー!と腕の中の猫のように抗議したけど、怖いどころか逆に笑いが出てくる。
様づけではなく、くんづけにするようにいったのは僕なんだけどさ。でも一日に何回も言い直すんだもの。しかもすっぱい梅干を食べたみたいな顔するんだよね、なんでそうなるの。

「ごめんごめん。そうだつらら、なにか猫が食べられそうなものって持ってない?」

「ありますけど、ダメです。」

「なんでさ。」

「この子のためになりませんし。もし今餌をあげたら次もまた貰えると勘違いしてしまいます。」

「なら、そのときまたあげればいいじゃない。」

「若。」

…彼女が゛雪女゛に戻った。姿は人間に化けたままだけれど、姉のような彼女だ。

「聞き分けてください。」

同級生の及川氷麗ではない。

「猫は賢いですよ。優しくしてもらえれば恩を返します。逆に裏切られたと感じれば恨みます。」

「あげられなかったからってそんな。」

「どう感じるかはそれぞれですから。」

生暖かい風が僕らの間を過ぎていった。
思わず下を向いてしまう。

つららの言ってることはわかる。きっと一時の感情だけで行動するなってことんなんだろう。もしかしたら百鬼夜行のことも指しているのかもしれない。でも…。

影をみつめたままでいると、もうひとつの影が近づいてきた。

「…しょうがないですね。今回だけですよ!」

リクオ様にそんな顔をされるのはつらいです。とポケットのなかからキャットフードを取り出した。




キャットフード?



「…………なんでつららがそんなの持ってるの?」

「え?………はっ」

なー。猫はするりと僕の腕から出るとつららの足元へすりよる。ぐるぐると喉を鳴らし、尻尾脚に巻きつける。

「つらら、もしかして」

「いっいえ決して、毎日若が授業中に餌をあげたりなんてことはないですよ!たまたま可愛くて餌をあげたらなつかれてしまったなんてことは、決して!たまに一緒にお昼寝なんてしてないですからね!」

聞いてもいないのに、焦って余計なことまでしゃべっているのはいつものつららだった。

「もういいよ、つらら。わかったからさ。」

「はぅっ」

「じゃあさ、それはつららからあげてよ。」

「…はい。」

「それと僕が言うのもなんだけど、側近の仕事はちゃんとしようね。」

「………すみません。」

妖怪なのに人間と変わらないよなぁ、と思う。
猫が餌を食べているのを楽しそうに見ている姿はただの女の子だ。

猫はキャットフードに満足したのか、お腹をだしごろりと寝転がる。触らせてるよ、とでもいうようにこっちをみた。

「ねぇ、触ってもいい?」
「どうぞ。わたしがいうのもなんですが」

温かい。生きているって感じ。野良のはずなのに毛並みも綺麗だった。

「つららは触らないの?手触りすごくいいよ。」

「あ…私は」

触りたそうに手をさ迷わせていたが、僕をみると引っ込めてしまった。
不安というかなんというか、何かに怖れたような顔をする。

「…覚えてはいらっしゃっらないんですね。」

「?」

「いえ、いいんですか?」

「いいよ。こいつも触って欲しそうだしさ。」

じぃぃぃっと真ん丸い目がつららをとらえている。

「し、失礼します。」

恐る恐る触ろうとする。
その手を猫が器用に前足で捕まえ、舐める。

「ひゃあっ」

「触るのが遅いから痺れをきらしたんじゃない?」

「ざ、ざらざりしますよーリクオ様ぁ。」

ざらざりって、また笑いそうになるのをこらえる。

「つらら、ちょっとそこで待ってて。これ届けてきちゃうからさ。」

つららが拾ったものを奪い、

「動かないでね。一緒に帰ろう。」

返事を待たずかける。後ろで何か言ってた気がするけど無視。

曲がり角で曲がるときに一瞬振り返った。
先程の恐る恐る触れていた時とは違い、嬉しそうに猫を撫でるつららがいた。


その笑顔にどきりとした。
それと同時に以前にも見たことがあるような不思議な感覚に陥った。


抱きつかれたときも感じたけど、なんでだろう?



「んーまっいっか」



頭の隅で゛彼゛が何か言った気がした。


『だからお前は鈍いんだよ。』



―――終


[あとがき]
かきたかった話第一弾。…ではなく、書きたい話の前ふりでした。

前ふりながい。



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