ss<nztume,yakusizi>

□考えるのはあなたのことばかり@」(夏←タキ
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「―い。」

風が少し冷たい。でもなにかが寒さから守ってくれている気がした。ふかふかしてて、つるつるしてる何かに包まれている感覚。あたたかい。

「おいタキ。」

瞼が重くてなかなか開けられない。ニャンコ先生に似た、でももう少し渋い声がする。狭い視界から見える白い毛。

「ニャンコ先生・・・?」

「ああ。動けるか?」

「うん、少し体が重いけどなんとか。」

「そうか。なら夏目を家まで運ぶのを手伝え。」

「わかったわ。」

立ち上がり歩こうとしたら足がもつれて隣にいた夏目くんに覆いかぶさってしまった。顔の近さに思わず顔が赤くなる。

「ご、ごめんなさい夏目くんっ。」

「そんなことでは起きん。その阿呆を支えながら私に乗れるか?」

「あ、うんやってみる。」

ニャンコ先生の背に夏目くんを乗せて、その後から私がよじ登る。またがった状態で夏目くんを後ろから支えた。ニャンコ先生って化けてもつるふかなんだ。今度頬ずりして、一緒にお昼寝したいな。

「陣をでたら落ちたりしないかな。」

「大丈夫だ。見えなくなるだけで私はちゃんとお前たちを乗せて飛ぶ。振り落とされるなよ。」

「え?!ゆっくり飛んで・・・!!」

ふわっと浮いたかと思うといつのまにか空だった。少しづつ陣から出て行くと同時にニャンコ先生の姿も消えていった。ニャンコ先生の姿が見えなくなっても毛をつかんでいる感触は確かにあった。生き物の体温もちゃんと感じられる。ちゃんとここにいるのね、と下を向いた瞬間思わず変な声だしてしまった。

「どうした?!」

「下、したが。」

「しっかりしろタキ。」

「高。え?あれ?なんで?」

「そうかタキにはもう聞こえてないんだったな。」

「た、高くて怖いけど、ちゃんとニャンコ先生にのってるのよね。大丈夫だよね。下を見なきゃいいのよ。うん、そう。」

支えている夏目くんの体をしっかりと抱く。先ほどよりも早く進んでいるのか風が強く当たる。スカートが捲れてる気がするけどニャンコ先生で下からは見えないから多分大丈夫。

景色を楽しむ余裕もなく考え事をしている間に夏目くんのお家に着いたみたいだった。門の近くまで急降下していく。少し衝撃があったかと思えば、足から地面まで1メートルもなくなっていた。

「きゃあっ。」

いきなりニャンコ先生が猫の姿にもどったため、夏目くんを支えたまま私はしりもちをついた。

「着いたぞ。」

「ここが  夏目くんのお家。」

「ぼけっとしてないで早く夏目を家まで運ばんか。」

「そうだった。」

玄関を叩くと優しそうな感じのひとが出てきた。その女性に夏目くんをお願いして私は家に帰った。もちろんニャンコ先生の背中にのって。うちまでの道のりを覚えておこうとしたけど、だんだん意識が遠のいていって無理だった。先生の乗りごこちくらい覚えていたかったな。


気づいた時には自分の部屋で寝ていた。寝ている間にニャンコ先生の夢をみていたきがする。獣姿のニャンコ先生を陣なしで見ながら、夏目くんと背に乗って空を散歩する夢。目が覚めて夢だと気づいて少し悲しかった。それが本当になったらいいのに。そうしたら、妖しが見えるようになったら夏目くんの力になれるかもしれない。傍にいられるかもしれない。・・・祟りが終わったから夏目くんとも話せなくなっちゃうのかな。

なんでそんなことを思ってしまうのかが分からない。考えれば考えるほど浮かぶのは夏目くんの微かに笑った顔と優しい手。

「夏目くん大丈夫かな。」

あ、また眠くなってきた。今日はゆっくり休んで明日は夏目くんに会いに行こう。答えが見つかるかもしれない。




――――――――



「だめよ透。休まなきゃ。」

お母さんのその一言で学校を休むことになってしまった。そんなに汗をかいて首の痣がなにか病気の初期症状だったらどうするの?だって。妖しに絞められました、なんて言えないから結局病院で診てもらうことになった。病院の行き帰りに注意しながら道を見たけど、夏目くんのうちへの行き方はわからなかった。まるで先生にのったことが夢だったかのように。

――――


見慣れた天井から枕に視線をずらす。病気でもないのに寝ていなきゃいけないなんて・・・・。そう思っていたけど、ひだまりの上にいたからまた夢の中に誘い込まれていった。









「ここどこ?」

手には折れた木の枝が握り締められていて、真下には陣。真っ暗なのにそれだけはわかる。怖い。なんでまた書いてるの?

「え?!」

暗闇の中になにかがいた。大きな頭に大きな額の傷。忘れもしない。
ぼんやりと見えるのはあの妖しだった。

「祟りはまだ終わっていない。ああそうだ。また楽しめるように趣向をかえようか。

私はお前の書いた陣の中に何度でも現れてやろう。そのときに私をみた生き物全てをお前の代わりに祟る。

どうだ?」

面白いだろう?そう言いたげににやりと笑う。

「嘘よ。あなたはもういない。夏目くんが封印したんだもの。」

「あんなもので私を封印できたと思っているのか、やはり人間は愚かだ。まぁ信じるも信じないもお前の自由。その間に食われるやつがどれほど出るんだろうな。」

「待って!」

「ああそうだ。いいことを教えてやろう。あの『夏目』には呪いをかけておいた。今頃もがき苦しんでいるはずだ、お前のせいでな。」

「・・・そん、な。」

伸ばしかけた手は何もつかむことはなかった。










夢?目が覚めると、うっすらとオレンジ色に染まりかけた空が広がっていた。あんなの夢に決まってる。・・・でも。

「どこにいくの?!」

「外の空気吸ってくる!」

でももし本当ならわたしのせいで多くの人が傷つくことになる。そんなの嫌。早く陣を見つけて消さないと。いろんな場所で書き歩いて消していない陣は山ほどある。夏目くんと会った原っぱ、川原、空き地、舗道されていない通学路。早く、はやく。日暮れ前に出来るだけのことをしよう。



「ん〜?あれはタキか?」





---

――――――――



「はい、きりーつ。」

担任の先生の声がいい具合に低いせいもあって眠い、すこぶる眠い。昨日は心配をかけちゃまずいからと日が沈む前にいったん家へ帰り、皆が寝静まった頃また陣を消し歩いた。真っ暗でほとんどなにも見えない状態だったからあまり進んでないのよね。また大きいあくびをひとつ。
ホームルーム終了とともに夏目くんのクラスへ向かった。・・・いないなー。見渡してみる限り探し人はいなかった。

「誰か探してるの?」

「あ、あの、夏目くんいる?」

「!あなた夏目くんのな」

「あー夏目?夏目なら風邪で休んでるよ多軌さん。」

「そうなの、ありがとう。」

話しかけてくれためがねの女の子が何か言いたげだったけどチャイムがなったのでそそくさとその場を離れた。あれ?そういえばあの男子はなんで私の名前知ってたんだろう。

『夏目には呪いをかけておいた』

「え?」

どこからか声がした。でも周りをみても誰もいない。今のは何?忘れていた夢の断片が頭をよぎった。

『あの夏目には呪いをかけておいた。今頃もがき苦しんでいるはずだ。』

!!

なんでこんな大事なこと忘れてたんだろう。今、夏目くんは私のせいで苦しんでいるのに。あれは夢なんかじゃなく本当のことだったんだ。そうじゃなかったら夏目くんはどうして休んでいるの?

学校を早退してでも夏目くんに謝りにいかなきゃ。あわてて前に出した足をゆっくりとおろす。焦る心を冷やす現実。家がどこにあるか知らない。夏目くんのお友達にでも聞く?振り返るとさっきの男の子と目があって手を振られた。少し頭をさげて答える。・・・なんて声をかけたらいいの?

「何やってるんだ多軌?」

「っ先生。」

「早く教室にはいらないと遅刻扱いになるぞ。」

「あ、はい。・・・そうだ。先生聞きたいことがあるんです!」

「・・・・授業のあとな。ほら早く入った入った。」

先生なら、特に夏目くんのクラスの担任の先生なら、夏目くんのうちを知ってるはず。ほかのクラスの生徒が何でと思われてもいい。
早く授業が終わらないかしら。








「―で、なんだ聞きたいことって?」

「その、先生のクラスの夏目くんの住所を教えてください!」

「・・・。」

「先生?」

「ああ、すまないね。いや君にもお見舞いに行く友人が出来たんだと思ってね。よかったな。」

そっか、私が誰とも話さない生徒だから心配されてたんだ。先生に住所を書いたメモをもらった。普段こんなことはしてはいけないのだけれど今回は特別だって。だからほかの生徒には内緒にするように言われた。ありがとう先生!




―――――――


ついに来てしまった。メモには簡単な地図も書かれていたから迷うことは無かったけど。

声をかけられない。

ただ戸をたたいてお見舞いに来たって言えばいいだけなのに。どうしてもそれができない。夏目くんにどんな顔で会えばいいかわからない。長いこと門の前で行ったりきたりを繰り返していた。

「多軌さん!?」

声に気づいて振り向くと朝会った男子ともう1人別の男子が歩いていた。

「もしかして夏目の見舞い?」

「あ、その、そ、あのなんでもないの!」

思わず走って逃げてしまった。なんだか恥ずかしかった。行ったりきたりしているのを見られたことも、私が夏目くんのうちの前にいたことも。あの二人になんて思われただろう。これじゃまるで夏目くんのストーカーみたいじゃない。






走りついた先は原っぱ。夏目くんとあったのもここだった。見渡して思い出すのはあなたのことばかり。ふと足元をみると変な小さな生き物が陣の中を歩いていた。
そうよ、今は私に出来ることをしよう。私に出来ること、陣を消して犠牲者を出さないこと。足で陣の一部を消した。変な生き物は見えなくなった。
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