Novel
□happy? unhappy?
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その年の誕生日は、最高の幸せと最高の不幸せが同居した誕生日だった。
いつも通りのDランクの任務をこなし。
8班の連中と別れて帰路に着く。
歩きながら俺は、陽だまりのようなあったかい匂いがだんだん近付いてくることに気付いていた。
知らず口元が緩んだ。
もうすぐ、あの角を曲がってくる。
あと10m……5m……1m……。
前方の角から黄色い頭がひょっこり出てきた。
「ワン!」
それを見た赤丸が嬉しそうに一声吠え、鳴き声に気付いたナルトが俺達の方に振り向いた。
「あ、キバー!」
「よぉ。」
走りよってくるナルトに向かって、相変わらずのぶっきらぼうさで挨拶を返す。
はぁ、どうして俺はもっと愛想良くできねぇんだ!
やっとのことで自分の想いを伝えてから一ヶ月。
それまで人を好きになることに臆病だったナルトと、恋愛の対象として自分を見てくれるよう約束した。
ようするに俺はナルトの恋人に立候補中なのだ。
といっても、状況は前とあまり変わらねぇんだけどな。
「キバも今帰り?」
「まあな。」
二人並んで歩き出す。
こんな時の、身長差のために自分を少し見上げてくる角度のナルトの表情が好きだ。
思わず頬が緩む。
それが照れくさくて、意味もなくいつもどおり頭に乗っていた赤丸を腕の中におろして、ぐしゃぐしゃに撫でた。
すると、懐の中に入れていた紙袋がガサリと鳴った。
「やべ。」
中身に思い当たって、慌てて中身を確かめる。
どうやら無事らしい。
「それってば、なに?」
取り出したそれをナルトは興味津々に覗き込んでくる。
「これか?」
再び赤丸を頭に乗せ、中に入っていたクッキーを一つ取り出してやった。
「やるよ。」
「いいの?!」
満面の笑顔。
いつものことながら、クッキー一つでこんな表情を向けてもらえるなんて、随分安上がり。
「へへへー、おいしー。」
「そうか?お前が褒めてたって言えば、ヒナタも喜ぶだろ。」
「え?これヒナタが作ったのか?すげー。」
「あいつ、班の奴の誕生日は何かしらそういうもんくれるんだよ。マメっていうかさー。」
「えっ!それじゃ今日ってば、キバの誕生日だったのか!?」
何を思ったのか、ナルトはいきなり立ち止まると、慌ててポケットやらポーチやらを探り出した。
「……何にもない……。」
「ど、どうしたんだ?」
「何にもないってば……。」
「何が?」
「……あげるもの……。」
「は?」
「キバの誕生日なのに!オレ、何にもあげるもの持ってないってば!」
何可愛いすぎること言ってやがんだ、こいつはぁぁぁ!
気のせいかちょっと潤んだように見えるナルトの瞳にドキリとして、俺は思わず絶句した。
「……!……別にいいだろ。そんなもん。」
またもや照れ隠しに乱暴に言い放つが、思ったより冷たい言い方になったそれに、ナルトはビクリと震え、俯いてしまう。
だー!何で俺ってこんなに口悪ぃんだ!
自己嫌悪に落ち込む。
「あー、その、悪ぃ……。べつに、さ、気持ちだけですげー嬉しいからよ。気にすんなって。」
「でもオレ、キバに何かあげたかったんだもん!」
「じゃあよ、来年でいいよ。」
「ほんとに?」
「ああ。そんかわり忘れんなよ。」
「うん、絶対忘れないってば!」
普段任務がある日は、別々の班の俺達が偶然会うなんてことはほとんどない。
それが誕生日に会えるなんて。
その上こんな嬉しいこと言ってもらってさ。
来年のプレゼントの約束までしてくれた。
結構いい誕生日じゃねぇ?