Novel
□眼帯
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「相変わらずカカシは時間どおりに来ないんだろうね。」
その綺麗な唇から紅はため息混じりの声を漏らした。
紅は彼女の率いる8班の面々の他に、7班のサスケとサクラと共に今日の集合場所にいた。
ここ3日程たまたま任務なしが重なった7班と合同訓練になったためだ。
「まあ、昨日の続きで体術の修行かしらね。」
基本的に任務も修行も班単位で行うため、体術などのように様々なタイプとの実戦経験が必要なものは、このように他班との合同演習の時に行われることが多い。
カカシが来ないことを既に決定事項として紅は今日の予定を頭の中で組み立て始めた。
「ところでよー、ナルトのやつはどうしたんだ?」
折角の合同演習なのにちっとも現れないナルトに、キバは少し拗ねた様子でずっと気になっていたことを尋ねる。
「……確かに、遅い。」
言葉少なにシノも相槌を打つ。表には出さないが、彼とて気持ちはキバと一緒なのだ。
「おかしいわね、いつもならとっくに来てるはずなんだけど。」
それを受けて、サクラが首を傾げた。
ナルトはあれで結構時間には正確なのだ。
前の日の任務が遅くなっても、遅刻をするようなことはなかった。
「あのウスラトンカチ……。」
少し離れたところで、サスケがボソリと呟く。
「ヒナタ、白眼で見えねえか?」
「うん……やってみる。」
小さな声でヒナタが応じ、チャクラを集中し始めた時、なんと時間どおりにカカシが現れた。
それもナルトと仲良く手をつないで。
(あの野郎……!)
待ち組数人から殺気立ったチャクラが放たれる。
しかしそれも近づいてきたナルトの様子を見て、一変した。
スキップするような軽い足取りのナルトの左眼には眼帯がつけられている。
「!?」
あの印象的な蒼い瞳が隠されてしまっているのを見て、みんなを代表するように紅が問うた。
「ナルト、どうしたんだい、その目は?」
「“もののらい”だってばよ!」
妙に嬉しそうだけど、マチガッタ単語。
「“ものもらい”でしょ。いや〜、昨日急に目がかゆいって言い出してね。見たら赤くなっててさー。焦って病院連れてったらものもらいだって。」
カカシはさりげなくライバル達に昨日一緒にいたことを主張してみた。
いい年をして、こんなガキどもが恋敵とは我ながら情けないと思いながらも。
大人気ないと言われようと、敵とは少しでも差をつけておきたいのだ。
時々、こうして大切な人を横から攫われないように牽制しておく。
「ばかねー。汚れた手でこすったりしたんでしょ。」
「ナルト君、大丈夫……?」
「ったくドジだな。心配かけさせんじゃねぇよ。」
「大事ないなら、いい……。」
「だからお前はドベなんだよ。」
特に重大な事態なわけではないことを確認してほっとすると、子供達はちょっと物珍しげに眼帯を覗き込む。
その反応に今さらながら、カカシは恋敵の多さに危機感を感じてしまう。
(害虫駆除も楽じゃないねぇ。)
何か良い手はないものか。
何気なく腰に手を当てると、ポケットの中に昨日病院でもらったナルトの目薬に触った。
昨日の騒動を思い出し、ふ、とカカシの口角が上がる。
(これは使えるかな。)