story
□シークレット・ガーデン
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ローレル。
ひとは皆、
心に庭を持っている。
その庭を
美しくするのも、
荒れさせるのも、
自分の生き方次第なんだよ――
それは、あたしを育ててくれた庭師の養父の口グセ。
だから、行くね。
過去ばかりのこの庭を出て、
あたしは、
あたし自身の庭を、
つくりに―――。
∞ 1 ∞
「古王国グランドールへは乗合馬車で半日、あるいは教会の移動法陣で。……って、どっちもお金かかるなぁ。節約しなくちゃいけないけど、グランドールにはぜっったい行きたいし〜」
なんたって、一般人が王宮庭園を見学出来るのだ。
話によれば500年前の庭園も残っているらしい。さすがにそちらは見学出来ないとしても、庭師の端くれとして、是非とも王室仕えのプロの技を拝見させていただきたい。
城下町なら働き口があるかもしれないし。
ローレルは、買ったばかりの観光マップを丁寧に折り畳み、膝に置いた。
公園のベンチに腰掛けた少女の脇には、一抱えある鞄と、何より大事な養父の形見の入った小ぶりのリュック、厳重に身につけた財布の中の現金。
それが今のローレルの全財産。
ローレルが生を受け、15年を過ごした屋敷を出たのは今朝方のこと。
彼女を生んで亡くなった母は、メイドとしてその屋敷で働いていた。母もまた身寄りがなく、ローレルは孤児として教会に引取られるはずだったのだが、母を妹のように可愛がっていたという庭師の養父が手元に置いてこの歳まで育ててくれた。
しかしその彼も、昨年流行り病で逝ってしまった。
お屋敷に雇われていたのは亡母で、養父で、ただの養い子の自分はあそこにいる理由がないし義理もない。
だから、出てきた。
15才になれば、自分で自分の生き方を決めることが出来る。
両親がそろっていれば働くなんて考えず上の学校にでも進むのだろうが、ローレルはみなしごだ。生きていくために自分で働いて金を稼がなくてはならない。
幸い養父が無駄にはならないからと、持てる全ての知識を与えてくれたから、読み書きは普通に出来るし、大抵のことはやり通せる根性も持っている。
だが養父がローレルに与えてくれたものの中で、彼女が最も大切にしているのは、緑を愛すること、植物を育てることだ。
出来るなら庭師として働くのが理想なのだけれど――、
これからのことを考え込んでいたため、ローレルの注意力は低下していたらしい。