story
□Sweet*One Day*
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Sweet×Bitter
*One Day*
「いお兄に会うの久しぶりー」
はしゃいだ声で、花野は手を繋いで隣を歩く玲に笑顔を向けた。
「俺もしばらく顔見てないよ。一人暮らし始めてから、あまりうちの方に帰ってこないし」
だからこそ母のお使いものを持って、こうして二人で兄のところへ向かっているわけなのだが。
「お姉ちゃんもなんだよー。最近外泊多いの」
どんなひとと付き合っていても、必ず家に帰ってきていた姉が、ここのところ「知り合いのとこに泊まるから」の一言だけよこして姿を見ない日が増えた。
社会人になって長いし、成人している姉が帰ってこなくても自己責任とばかりに放任主義な両親はあまり気にしていないようだが、話す相手がいない花野は少しつまらなかった。
「今の彼氏とうまくいってるってことだろ? ……何だ花野、取られたみたいで寂しいんだ?」
「…違うもんっ」
だって。相談したいことがあったんだもん。
小さく呟いた花野の言葉は玲に聞かれることはない。
チラリ、と玲の顔を窺うように見上げる。
生まれる前からのお隣さんで、幼なじみで、長いすれ違いのあと、夏に想いを通じ合わせた玲と花野。
恋人同士になって、二つ季節が過ぎ、幼い頃とは違ってそれ相応のこともしている。
キ、キスとか、身体に触れることとか。
共働きをしている花野の両親と、働いている姉が帰ってくるまで井澤家はおあつらえ向きに無人。
容易に二人きりになれる条件が整っていて、多分新堂家の母にはバレているだろうが、そういうコトをするには万全の環境だ。
しかし今だ至っていない。
最後の最後で花野がまごつき、玲も花野の意思を無視してどうこうするほど焦っていない為、触れ合うだけで終わっている。
くっついた時点でそうなっているものと思っていた友人たちには仰天されたが。
『焦らしに焦らしてまだゆるしてないの! 花野っては意外とS…?』
『玲くんもガマンづよいね〜。やりたい盛りなのにっ』
『大事にされてていいなぁ…花野ちゃんは……』
婚約者のいる貴葉、彼氏が途切れたことのない妃菜、花野と同じ頃に彼氏が出来た梨紅はすでに経験者。
仲の良い彼女たちに聞いてもよいのだろうが、花野としては玲と付き合うまでの一部始終を知られていて、しかも背中まで押された形になってしまったので、それ以上弱味を握られるのは今後のために避けたいと思う。
だいいち。
ぇ、え、ぇっち、するとき、自分はどうしたらいいのなんて、お姉ちゃんにしか聞けないよーーー!!
真っ赤になって繋いでいない方の手を意味もなくブンブン振る花野に、玲は不思議そうな目を向けた。
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