story
□Sweet*SS〜星に願いを〜
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◇S*S/星に願いを◇
「祥子ママ、やっぱりないよー」
リビングから聞こえてくる花野の声に俺は足を止めた。
「変ねぇ、全部その箱に入れてた筈なのに」
のんびりした母の声と、何かをかき回す音。
部屋に入ると、こっちを向いて床に座り込んでいた花野がぱっと笑顔になる。
「おはよう、玲くん」
「おはよう、花野」
当然の様に挨拶を交わせる、それがどんなに大事か、花野と離れていた間に思い知った。
自分を見つけて笑顔になる、それがどんなに嬉しいことかも。
花野の隣に腰を下ろしながら、なにやってんの、と訊くと、見て分からないのかと母が呆れた顔をする。
「クリスマスの飾り付けよ。今年はみんなが揃うから久しぶりにツリーを出そうと思ったの」
ああ、それで…。リビングの真ん中に置かれた疑似モミの木を見て、花野に目を移すと箱から、ひとつずつ飾りを出してスカートの膝に並べていた。
天使、林檎、様々なオーナメントの中にはガラクタ――俺たちが小さい頃に集めていたお菓子のオマケ、とかキューピー人形とかまで混じっていて、そういえば手当たり次第にツリーに付けていたっけと懐かしく思い出す。
――花野と俺に距離が出来たあと。毎年2家族で祝っていたクリスマスも、しなくなって。
いつも当たり前だと思っていた風景が、そうではないことに気付いて。
子どもだった自分を何度罵ったか――
「あのね、玲くん、星がないの」
花野の声で我に返る。
「お星さま、どこ行っちゃったのかなぁ」
空になった箱から次の小物入れに手を伸ばす花野を見つめながら、幼い俺が公園の木に登っている光景を思い出していた。
――星に願いを。
花野の笑顔がない俺の隣に耐えられなくて、右手にソレを持ってこの辺りで一番高い木の上に登った、あの日。
何故そんなことをしようかと思ったのかは覚えていない。
天辺にくくりつけた星形のオーナメント。
―もう一度、傍に。
花野が俺の隣に戻りますように―
なんて、他愛ないけれど真摯な願い事。
あの時オモチャの星に願ったことは、誰にも秘密。
fin.