□ 小話

□□ ムーンライト・シアター
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むかしむかし、西の大陸に夜の世界を支配し、人の生き血を吸う一族がおりました。
夜な夜な家来の狼やコウモリを従えて人々に恐怖を与えたその一族は100年毎の眠りにつき、国に平和が戻りました。
その一族の名は物語の中でしか出てこなくなり、いつしか人々から忘れ去られていきました。





ムーンライト・シアター





今夜はハロウィン。そんな夜にふさわしい満月が夜の町を照らします。

「おー、満月!」

月の光の街灯の中を泉は自転車を漕いでいると、ふとその光が一瞬途切れました。

「?」

泉が空を見上げると、少し先の方に何かが飛んでいるのが見え、フラフラと飛んでいたそれは落ちるように公園の茂みの方へと姿を消しました。

「何か落ちた!」

泉が慌てて公園に行ってみると、そこには折れた枝や葉っぱとその中央に何か黒い塊が落ちてました。

(なんだあれ?)

泉がその黒いものに近づいてみると、それは人間でした。身体を纏う黒い布は木にひっかかったのかあちこちが破れ、よく見ると顔にはすり傷があります。

「おい!大丈夫かよ!!」

泉が身体を揺さぶると頭を覆っていた黒い布がハラリと落ち月の色を映したような金色の髪が現れ、ゆっくりとヘーゼル色の両目が開きました。

「・・・・・。」

じっと泉の顔を見るなり、「へぇ・・、いいじゃん。最初の妻にしてやろう。」と言うと、突然泉の首筋へと噛みつきました。

「何してんだよ、てめぇ。」

少し噛みつかれた瞬間に、泉の拳が相手の顔へとめり込み吹き飛びました。
小さく見えてすごいパワーです。





「・・・で?その吸血鬼様は嫁探しに日本に来たって?」

仁王立ちの泉の前で正座をし、目の周りがパンダのようになった青年が最初の勢いが嘘のようにコクコクと頷きます。この金髪の青年は自分の事を吸血鬼だと言いました。

「しかも100人だって?」

再びコクコクと頷きます。そしてこう言いました。

「お前なら1号にしてやってもいいぞ。」

自分より小さい筈の泉の影が巨大化したような気がしたと同時に、「国へ帰れ!このエロ妖怪!!」と怒鳴られました。

キャイン キャイン

そんな鳴き声が聞こえてきそうです。
泉は怒りを表すかのように、ガニ股でその青年を置いてさっさとその場から立ち去りました。





その夜、泉がベッドで寝ていると何か重苦しいものを感じ、目をあけると先ほどの吸血男が自分の上にかぶさり、口をカーッとあけて自分の喉元へと噛みつこうとしていました。

メリッ!!

本日2度目の泉の左の拳が炸裂です。

「なんでおめーがうちにいるんだよ?」

再び仁王立ちの泉の前に正座をした金髪の青年は、今度は右目のまわりにパンダ模様ができました。
でも、先ほどついていた左目のパンダ模様や、すり傷はみあたりません。
たった今ついたパンダ模様も少し消え始めています。
マントに英国紳士のような格好はただのハローウィンの仮装かと思ってましたが、どうやらこの青年が吸血鬼だというのは本当のようです。

「・・おめー・・本当に吸血・・。」

泉がそう言い終わらないうちに1Fから声が聞こえてきました。

「浜田くん、お風呂いいわよ〜。」

「「・・・・・・。」」

泉の顔が引きつります。
青年が玄関前でお腹がすいて倒れていたところを、泉のお母さんが助けたのでした。

「料理や掃除も手伝ってくれるし、助かるわぁ〜。それになかなかのハンサムだしv」

さすがの泉もお母さんには逆らえません。なにせ、いつの時代も母は強しですから。
そんなこんなで浜田と名乗る吸血鬼が嫁を捜す間、泉家に居候することになりました。










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