□ 小話

□□ チョコレートゲーム
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この話では浜田と泉は友達以上恋人未満です。







チョコレートゲーム





「はー、さっみぃー!!」

「温まるように次も漕いでもいいぜー。」

「いやいや、次の自販機で交代だからな!」

「ジャンケンに勝ったらな。」

月明りに自転車の二人乗りの影が伸びる。
白い息と二人の声が冬の澄んだ空に吸い込まれていく。
夏の大会以来、野球部と応援団はかつてないほどにもてて、バレンタインの今日は浜田と泉はお互いに紙袋を持っての帰宅となった。
浜田の方が泉の2倍くらいの大きさのようだ。

「いくつもらった?」

「あ?数えてなんかねーよ。浜田より少ねーぞ。」

興味なさそうに答える泉に構わず浜田は続けた。

「でもさー、俺のは市販品が多いけど、泉のはなんか手作りっぽいのが多くねーか?」

「そっか?」

「「・・・・・・。」」

キコキコと自転車の音が響く。
後ろ向きで荷台に乗っている泉は空を見上げた。
三ツ星を眺めながら「・・・・彼女とかいんの?」と小さい声で訊ねてみる。

キコキコキコ

その声が聞こえてるのかどうだか浜田からの返事はなく、自転車を漕ぐ音だけが響いた。





.

「お!自販機見っけ!!次こそは勝つ!」

自転車を漕ぐ足に力が入り、スピードをあげて自販機に近づく。
キッと、自販機の前で自転車を止め、泉の方を向くと「彼女はいねーけど、好きな奴はいる。」と答えた。
自販機の明かりが逆光で浜田の表情は見えない。

「そいつからはもらってねーの?」

「うん。まだ。実は期待してんだけどね。」

「へー。」

そのままの姿勢で「泉は好きな奴いんの?」と聞きかえす。

水面下の探りあい。
きっとお互いにお互いの気持ちに薄々と気付いている。
だから今日は約束したわけでもないのに一緒に帰っている。

「じゃんけん・・・・。」

浜田の問いには答えず拳を振り上げてジャンケンの催促をすると、慌てて浜田も拳を出した。

「ポン!」

浜田がグーで泉がパー。

「・・・本当に弱えー。一種の才能だぞ。」

「くっそー!!」

ケラケラと笑う泉の顔が自販機の明かりに照らされて暗闇の中はっきりと浮かび上がる。
その笑顔が眩しいのは明かりのせいばかりではなさそうだ。

「しょーがねーから、かわいそうな浜田にジュ−ス奢ってやっか。」

「お、サンキュー。泉君優しい〜。じゃあ、俺、ブラックね。」

ホイと浜田の方へ投げられた缶のラベルにはココアの文字。

「・・・ブラックじゃねーよコレ。」

と不満そうに言う浜田に背中を向けたまま「今日だけだからな。」という泉の耳が真っ赤になっていた。
そんな泉を見て、初めて浜田はその意味に気付く。

「えっ、えっ!?これって・・!?」

「チョコじゃねーけど・・・。いらねーなら、俺が飲む。」

「いや!頂きます!今スグ!!」

「よし。」

(甘い・・・。)

それは甘くて甘くて・・・とけそうな位に甘くて。

「・・・うち・・・寄ってく?」

「・・・・・・・・いいぜ。」

そうして、やっと実った恋とたくさんの失恋が今ここに生まれた。




キコキコキコ



バレンタインの夜の住宅街に響く音。
その音は降り出した雪に吸い込まれていった。









2008.2.14 バレンタイン記念

バレンタイン企画はしないぞと思いつつ・・・作っちまったい。
にしても、浜田は安く上がるなぁー。120円?笑
チョコのように甘い恋を届けられたら幸いです。












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