□ 小話
□□ ロッカーの向こう側
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「お前らさー、あと1時間で昼飯だぞ?今食ったら、”うまそう” ができねーだろ?」
頭にタオルをまき、花井が呆れたように言った。
その先には9組メンバー3人と水谷が頬をこれでもかという位にもごもごさせて「あ!」という顔をしていた。
「あー!そーだった!!つい」田島が叫ぶ。
「飛ばすなつーの」
ロッカーの向こう側
弁当まであと1限。
浜田も入れた9組メンバー4人に、打ち合わせにきていた栄口。
少ない休み時間にそれぞれの用事で7組に野球部の10人中7人が集まっていた。
野球部のファンの子が作ってきたという手作りのドーナツを餓鬼のように食べていた時の事。
そんな時に爆弾は投下された。
「泉、ついてるよ」
クスっと笑いながら、栄口が泉の頬についていた食べかすを手で取り床に落とした。
「んぁ?サンキュー。
・・・あれ?席ねぇの?半分座れよ」
栄口がずっと立っている事に気がついた泉は席を半分ずらした。
「おう、ありがとう」
いつもなら遠慮しそうな栄口が素直に応じ、泉と栄口は一つの椅子に半分ずつ腰掛けた。
普通なら男二人が一つの椅子に密着して座るなんてキモいとしか思わないのだろうが、不思議とこの二人の場合は、可愛らしい感じがした。
栄口が視線を感じ、その先をたどってみればなんとも情けない顔をした水谷が見ていた。
「ぶっ」
「なに?」急に吹き出した栄口に泉が訪ねた。
「んー?いや、かわいいなぁと思って。」
「誰が?」
「水谷。」
「・・・・妬いてんの?」
「みたいだね。」
「ふーん」
泉はわざと栄口に顔を近づけて話してみると、水谷が泣きそうな顔になった。
「おもしれぇ。」
「こらこら」
泉はちらっと浜田を見てみたが、浜田は三橋と田島で手いっぱいのようでこっちを見る気配がない。
キーンコーンカーンコーン
「次、移動教室だろー?ホレ帰っぞ」
田島の首根っこをつかみ教室へ帰っていった。
「じゃあ、また昼にでもくるよ」
9組メンバーに続いて、栄口も席を立った。
「ああ、結局打ち合わせできなかったな。」
花井と阿部が申し訳なさそうに言うのを、世界の笑顔で返し栄口は出て行った。
7組は嵐が去ったようにいつもの教室に戻っていた。
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