ハレルヤ
□一面の青は君の約束のように嘘がない
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昔、約束をした。
約束をしたというより、されたと言った方が良いだろうか。
それは、あのいつでもムカつく笑顔を浮かべていた、最後の最後まで人の名前を間違いやがった―絶対にアイツは直す気なんてなかったんだろう、そしてきっと、また会ったら間違った名前を呼ぶのだ、ムカつくことに―アイツがいなくなった、次の日の夜。
酒を片手に月見酒、としゃれこんでいた時のことだ。
俺は言った。
特に何も考えはせず、そいつの方も見ず。
誰に言うともなく、ポツリと。
まるで独り言のように。
「俺らもいつかいなくなっちまうんだろーなあ」
何の意味もなく、月へと手を伸ばす。
そうすればまるで簡単に掴めそうなのに、月は遠かった。
「俺はいなくならないよ。例え離れたとしても―また、銀の前に戻ってくる」
「幽霊になって、かあ?勘弁してくれや。俺は幽霊になってまでお前らに会いに来てもらいたくなんざねーよ」
俺の隣でゆっくりと、味わうように酒を飲んでいたそいつは、俺の言葉にクスリと笑って。
「銀、お化け嫌いだもんね」
「……………うるさい」
どうせ誤魔化したってこいつは「そういうことにしといてあげる、」なんて言って笑うのだ。
これまでの経験でそれを知っている俺は、悔しいけどそう言ってまるでふて腐れたように酒をあおった。
「大丈夫だよ、俺はちゃんと生きて会いにくるから」
「……そーかよ」
その言葉に、俺はその言葉だけを返す。
するとこいつは、俺の顔を下から覗きこんできて。
「銀、信じてないでしょ」
「………」
俺はそれに、こいつの目を見つめ返すことができなくて。
そっと、目を反らす。
だってそうじゃないか。
この、明日なのか一週間後なのか一ヶ月後なのか――それとも一瞬後なのか。
いつ死ぬかもわからないような今、いなくなるということは、あの笑顔のモジャモジャみたいなイレギュラーなことがない限り―そしてあり得ないがこいつかまたは俺がこの戦場から怖くなって逃げ出さない限り―それは、“死”を意味するのだ。
それが明確な“死”による別れではなく、はぐれたことによる別れだとしても同じこと。
戦争中の今、味方とはぐれてしまえば――それは、“死”を意味するのだから。
「……つーかそれ、俺も生きてなきゃダメじゃねえか」
しばしの間それぞれ何も言わず、ただ静かに酒を飲んでいたあと。
俺はふと気付いたそれを口にして、隣のこいつの方を向く。
するとそこには、いつもの如くまるで頭上に広がる大空のように、すべてを包み込むような―そしてどこか、楽しげな笑みを浮かべたこいつがいて。
「そうだよ、もちろん」
じゃなきゃ俺はどこに帰ってくるのさ、とこいつは笑い。
「俺は例え銀たちと離ればなれになってしまっても――絶対、絶対生きて戻ってくるから。ちゃんと、みんなのことを探すよ」
約束、ね。
そう言って、こいつは小指をこちらにつきだし、まるで子供のような無邪気な笑みを浮かべた。
「…、………あー…」
ミンミンジワジワとうるさいセミの音。
それがあちらこちらから聞こえてくる公園の、日陰にあるベンチに座っていた銀髪の男、坂田銀時は、力無い声をあげて目を開いた。
どうやらこのくそ暑い中、自分は寝ていたらしい。
汗をかいた服をパタパタと風も来ないのに無意味に動かしながら、懐かしい夢を見たとボーッと思う。
ふと上を見上げれば、そこには一面の青。
どこまでも続く真っ青な空が広がっていて、雲一つない。
…これは暑いはずだ。
とそこで。
「えい」
「うおっ!?」
なにやらかわいらしい掛け声とともに、首筋にくる冷たい感触。
思わずそれに変な声をあげ、何事かと飛び上がるようにして後ろを振り向けば――そこには、先ほどまで夢に見ていた青年が、ジュースを両手に持って立っていた。
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