ハレルヤ

□第2話
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ああ、夢だ。

これは、俺の記憶をもとにした夢。

その光景を見た瞬間、俺はそう、直感した。


いや……直感なんかじゃない。

俺はこれが俺の見るただの夢だということを知っていた。

なぜならこれは、もうこの先を覚えてしまっているほどに、繰り返した記憶だから。






「ない…」



俺の見ている前で、口を開く“オレ”。

やがて俺の意識は、夢の中の“オレ”に溶け込んでいく。



「ない?」



「ない、んです。帰る場所が。いないんです、親も、…っ仲間も」



叫んでも叫んでも、帰ってこない返事。


この身に染みた超直感が教えてくれた。


――ここは、あの世界ではないのだと。



「俺が…ひとりぼっちだって」



ここには、俺の居場所はないのだと。



「……っ」



瞳からは涙が溢れ、体からは力が抜ける。



「…それなら」



ジャリ、と。

後ろから、一歩地面を踏む音がした。



「それなら私が、親となりましょう」



一歩一歩、



「そして、ここを帰るべき場所に――家にすればいい」



ゆっくりと歩いてくる音。



「私が、あなたの居場所になります」



そう言って肩に置かれた手は、酷く暖かかった。



「あなたの…名は?」



「――」



名乗って良いのだろうか。

この世界にはいない父と母がつけてくれた、この世界にはいない友が呼んだ、その名を。


もう一度――名乗りたかった。

もう一度――呼んで欲しかった。



「…つな、よし」



たとえ、未練がましいと言われても。



「沢田…綱吉」



だってそれが、俺の名前だから。



「綱吉…良い、名前ですね」



そう言って、きっと彼は微笑み。



「私の名は、吉田松陽。これからよろしくお願いしますね、綱吉」



そして俺の頭を、ゆっくりと撫でてくれた。










それは、悲しいくらい懐かしい、思い出。

俺と先生が、初めて会った時のことだった。





泣きたくなるほどに、

(それは優しく、)(悲しい夢)


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