ハレルヤ
□第12話
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「何で言い返さないんだ?」
「…晋助」
塾の直ぐ近くの細い道。
そこで綱吉が自分のことをまるで捨て台詞のように貶して走り去った少年達の後ろ姿を見送っていれば、後ろからかかる声。
それにそちらを振り返れば、そこには友人が不機嫌そうな表情で立っていて。
「だってホントのことだし」
そう言って、綱吉はヘラリと気の抜けた笑みを浮かべる。
それに高杉はますます不機嫌そうに眉をひそめ、その表情に綱吉の笑みも苦笑へと変わる。
高杉は悪口―ちなみに内容はといえば、親に捨てられたくせにだとかそういった類のものである―を言われたにも関わらず、困ったように笑うだけで何も言い返さない綱吉に対し機嫌が悪いのだろう。
先ほどの問いのようになぜ言い返さないのかも―なぜならきっとこれが彼ならば言い返しているだろうから―不思議に違いない。
確かに親の顔を知らない十代前半か十代になったばかりの子どもが先ほどのような悪口を―原因は突然やってきたくせに勉強ができ先生によく誉められていることに対する可愛い嫉妬だろうと綱吉は考えている―言われたとすれば、泣くか怒るかするだろう。
ショックだって大きい。
しかし精神年齢では彼らの何倍も上である綱吉としては、それくらい笑ってやり過ごせるものなのだ。
何よりムキになって反論するのは、なんだか大人気ないような気がして。
その気になれば彼らなんて簡単に言い負かすことができるから、それはなおさら。
「悔しくねーのかよ」
「うーん…あんまり?」
そう言って首を傾げたあと、綱吉は高杉の隣に並んだ。
黒き獣
-上-
(飼い慣らすは、)(優しき大空)