素数的進化論。

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第34話
-罪なき被害者-










[…………]



――朝日七弥生。

彼女は、忍足侑士と共に暮らしている中学三年生である。

とある出来事がきっかけで話すことの出来なくなった弥生は、しかし聞き取ることはできるため、それまでと同じように氷帝学園中等部へと通っていた。


そんな彼女は今、氷帝学園高等部の敷地内にいる。

キョロキョロしながら彼女が探すのは、共に暮らしており、また密かに想っている相手である忍足がいるはずのテニスコートだ。


ファンクラブなんてものが普通に存在しているテニス部である。

もちろん忍足のファンクラブもあり、弥生の存在が彼女たちにバレたら危ないからと―そして忍足が可愛い存在である弥生をテニス部員に見せたくないからと―普段は近づくなと言われている高等部のテニスコート。

そこに彼女が行こうと思ったのは、最近、忍足と会えてないからである。


忍足がボンゴレファミリーの一員であることを、弥生は知っていた。

十代目である綱吉に会ったこともあるし、その他の守護者とも交流がある。


しかし彼女は、ボンゴレファミリーの行っていることを知らないし、忍足が何をしているのかも一切知らされていなかった。

それはもちろん、彼女のことを思ってのこと。

下手に知ってしまえば後には戻れなくなるし、彼女にも危険がおよぶからである。


そしてそれと同じ理由で、現在弥生は忍足と共に暮らしてはいなかった。

忍足は、現在の任務のために、綱吉と同じ時期に宍戸の住むマンションへと引っ越していたのだが、それに弥生は連れて行ってもらえなかったのだ。


しかし忍足は、心配をかけぬように、そして弥生が寂しくないように、頻繁に弥生の住むマンションへと足を運んでいた。

それが、ここ数日は連絡もなかった。


もとは二人で住んでいた部屋である。

それにこの任務の後にはまた二人で住むつもりであるので、荷物はほぼそのままだ。

そのため、弥生は余計に寂しくなった。


だからダメだとは思いつつ、こうして忍足の姿を見ようと高等部にやって来たのだ。



「どうかしたの?」



テニスコートを探してキョロキョロとしていた弥生の背中に声がかかる。

それに後ろを振り返れば、そこには、高等部の生徒だろう、一人の少女が立っていたの。



「あなたは…中等部の子?」



その質問に、弥生はコクコクと頷く。

そしてスカートのポケットから携帯を取りだし、メール機能を使ってテニスコートの場所を尋ねた。



「テニスコートに行きたいの?…なら、ついて来なさい」



少女は口ではなく、携帯を使って意思を伝えてきた弥生に何も言うことなく、にこりと綺麗な笑みを浮かべ、テニスコートへと歩き出した。






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