素数的進化論。
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第33話
-正義のミカタ(下)-
「………」
氷帝学園高等部の、とある教室内。
宍戸の見つめる先にいるのは、綱吉に向かい楽しそうに話す少年、鈴木隆弘。
クラスでも目立たず、あまりその声を聞いたことのない少年は、しこしここ最近積極的に綱吉の側に立っていた。
「…べったりだね」
宍戸の前の自分の席でこちらを振り返りノートを移していた上原が、顔もあげずにポツリとこぼす。
それに宍戸は一度彼を見たあと、また綱吉達の方へと視線を戻し。
少しの間のあと、ため息混じりに頷いた。
「…そうだな」
何日前だっただろうか。
綱吉への呼び出しを止めてから、彼はことあるごとに綱吉の方へ行くようになった。
他に親しい者がいないため、それは本当にことあるごとに。
初めは消極的だったそれも、数日たった今ではまるで遠慮がない。
まあそのおかげで綱吉への呼び出しなどが減ったのは良いことなのだろうが――
「鬱陶しくない?」
「……うん?」
鈴木との話が終わりこちらへと帰ってきた綱吉に、上原はそう唐突に尋ねた。
当たり前のことだが何のことか分からない綱吉は、首を傾げて宍戸の方へと目を向ける。
目だけで問うてくる彼に、宍戸は鈴木を示し。
「ああ……まあ、うん…」
それに意味を理解した綱吉は、歯切れ悪く苦笑を返した。
「あ、…あの!」
「………何?」
昼休みの教室の中、上原がいつも通り自分の席で一人静かに本ん読んでいると、誰かがその机の前に立ち話しかけてきた。
それに顔を上げれば、そこに立っていたのは鈴木で。
珍しい人物に上原はかすかに怪訝そうな表情をする。
「あ、あの…っ…綱吉、くん…どこ行ったか知らない、かな」
オドオドとしつつ、まるで上原の視線に怯えるかのように体を縮こまらせて、つっかえつっかえ話す鈴木。
それを上原はしばしの間無言でじっと見つめて。
「……悪いけど、知らない」
「そ、そっか…」
上原の答えにあからさまに気を落とした様子で頷く鈴木。
そして礼を言ってその場を去ろうとした彼を、上原は呼び止める。
「…ねえ」
「えっ…?」
「…いい加減、止めたら?」
「え…?」
上原の方を振り返り、キョトンとして首を傾げる鈴木。
その表情に、上原はため息をついて。
「…気づいてないならいい」
「え、あ…うん…」
そう言ってまた本へと目を戻した上原に、鈴木は首を傾げながらもその場を後にした。
「綱吉くん!」
昼休みの屋上。
綱吉と宍戸、そして忍足の三人がいたその場にやってきたのは、一人の少年――鈴木。
おそらく教室で上原に尋ねた後も綱吉を探していたのだろう。
彼を見つけると、その顔をパッと明るくさせて三人へと近寄っていく。
「…鈴木くん?」
「良かった、無事だったんだね!」
綱吉に近寄り、そう言って笑みをこぼす鈴木。
「教室にいなかったから、また誰かに呼び出されたのかと思って探したよ」
そう言う彼は、先ほど上原の前に立った時とは違い饒舌で。
「心配させてごめんね」
「いいって!遠慮しないで!」
まるで、別人のようだった。
「友達のためならこれくらい当たり前だからさ!」
そう言って、にこり、彼は笑みを浮かべ――
「ね?」
綱吉の両手をギュッと握った後、残りの二人には目をくれることなくその場を去っていった。
「…………何やあれ」
パタン、と屋上の扉が閉まってから少し。
しばしの沈黙の後、呆れたように口を開いたのは忍足だった。
「何って…」
「綱吉の追っかけだな」
「追っかけえ!?」
苦笑しつつ言葉を濁した綱吉のあとに続いた宍戸の言葉に、思わずすっとんきょうな声を出す忍足。
しかし少し考えた後、先ほどの様子に納得したのか頷いて。
「まあ確かに、それっぽかったなあ…」
雰囲気というかその態度というか。
“ただの友人”とは、とてもじゃないが見えなかった。
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