素数的進化論。
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第31話
-Drug-
――さて皆さん、突然ですが覚えているだろうか。
跡部財閥主催のパーティーの際、護衛を行っていた黒服集団、ボンゴレファミリー暗殺部隊ヴァリアーの存在を。
「う゛お゛おい、ここで間違いねえんだろうなあ」
「シシッ当たり前じゃん、だって王子が直々に聞き出してやったんだぜ?」
「ベルは何もしてないけどね」
「うっさいマーモン」
時刻は午前0時をまわった頃。
黒いコートにその身を包み、完全に気配を消した状態で―しかしどこか騒がしい三人―とはいえそのうちの一人は明らかに子供ととれる体格だったが―の人間がそこにいた。
跡部財閥主催のパーティーにて、愚かにも直接ホストである跡部財閥のトップの命を狙おうとした男。
その男からこの場所と仲間の訪れる日時を聞き出し、そして彼らはここにいるというわけである。
どこかの港沿いで倉庫が建ち並ぶそこは、彼ら以外の人の姿はない。
―とそこに、一台の車がやってくる。
それを目にした瞬間、先ほどまでとは違いその目に真剣な色の宿る三人。
彼らがじっと見つめる視線の先では、数人の男たちが車から降り、何かの詰まった鞄を車から運び出していた。
そして男たちのうちの一人が、倉庫の壁にカードキーを差し込み暗証番号を打ち込んで扉を開ける。
そして次の瞬間――男たちの視界は真っ暗になった。
「ビンゴだなあ゛」
男たちを一瞬で気絶させた―ボンゴレ十代目である綱吉の指揮下で動いている今、彼らは暗殺部隊なのにも関わらず極力殺すことを許されていなかった―あと、扉を閉め倉庫の中を物色する三人の黒服。
そのうちの一人、流れるような銀の髪の男、スクアーロがそう言って倉庫の中を見回した。
その視線の先にあったのは、本来ここにはあってはいけないはずの、大量の白い粉――そう、それは袋に入った大量の麻薬であった。
「にしても、バカじゃね?コイツら」
ケラケラと笑いながらそう言ったのは、ナイフを片手で弄んでいる金髪の少年、ベルことベルフェゴール。
その言葉に、スクアーロと一番小さな人物であるマーモンも同意を示した。
今彼らの足元で気絶しているのは、日本人ではあるものの、とあるイタリアンマフィアの一員だった。
しかもそれは、麻薬で資金を稼いでいる、ボンゴレファミリーの―というか九代目や十代目である綱吉の―最も嫌う部類の、である。
そんな彼らはしかし、ボンゴレからけして好かれてはいなかったが、その活動を理由に潰されることもなかった。
彼らがそこそこ大きなファミリーだということもあるだろうが、ボンゴレといえどもマフィアはマフィア。
正義の味方ではないからである。
だから、そう。
彼らはボンゴレのシマにさえ手を出さなければ、そのまま私腹を肥やすことができたのだ。
にも関わらず、彼らはボンゴレのシマにさえ麻薬を流そうと画策し―その上、この日本にまで手を伸ばしてしまった。
確かに日本はボンゴレの傘下ではない。
しかしボンゴレの傘下であるたくさんの企業や、そして――そしてそこには、そういったことを心底嫌う人間、ボンゴレファミリー十代目ボスがいた。
さらにその上、彼らはとある財閥と手を組み―と思っているのは両者ともに建前であり、どちらもが両者を利用しあっているのだが―ボンゴレ十代目ファミリーの、守護者の通う学校に流してしまったのだ。
そう、つまりボンゴレファミリー十代目月の守護者、宍戸亮の通う、氷帝学園へと。
しかも時期が最悪だった。
なぜなら今、綱吉はその学園にいるのだから。
―気づくなという方がむちゃな話である。
彼らにボンゴレを敵に回すつもりなど微塵もなかっただろう。
バレないように彼らなりに細心の注意をしていたはずだし、自信だってあった―でなければあのボンゴレに喧嘩をするようなことはしない―だろう。
むしろいまだそのことに気づいていないことも十分考えられる。
おそらく彼らは、ただ単純に日本の若者へとターゲットを広げただけ。
そしてそのターゲットへの接触の場として、いつかに忍足が潰したクラブや、はたまた日本の財閥の子息に令嬢のあつまる氷帝学園が選ばれただけだったのだ。
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