素数的進化論。
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第27話
-ある朝の出来事-
「…………」
朝の生徒会室。
その窓から、菊峰はテニスコートを見ていた。
その視線先には、準レギュラーやそれにすらなれなかったメンバーから、それとなく嫌がらせを受けている綱吉の姿。
しかし、レギュラー達の――部長である跡部景吾の姿はそこにはなかった。
「香織、ちゃ…」
その事実に不機嫌そうに菊峰が眉をひそめた時、後ろからかかる声。
それに彼女は、振り返ることなく答えた。
「ビデオはどうだったの?」
「それが…」
言いよどむ一ノ瀬。
それに、菊峰は苛立ちを隠そうともせずに舌打ちして。
「…本当に、やくたたず」
「ごめん、なさい…」
菊峰が見ている訳でもないのに、本当に申し訳なさそうに頭を下げる一ノ瀬。
そんな彼女が、見ているかのように容易に想像できて。
「…良いから。早く行きなさい」
そう言えば、一ノ瀬は少し迷ったあと、その場をあとにした。
「………」
未だに窓の外を見つめる菊峰が探すのは、跡部の姿。
いつも菊峰の上を行く彼は、目障りで。
自分の家にとっても、跡部財閥は目の上のたんこぶでしかなかった。
そんな彼との婚約が決まりそうになっている、今。
菊峰は、彼と結婚したあと、その力を自分の財閥のものにしようとしていた。
しかし、それには婚約者である跡部が邪魔で。
だから彼女は、彼がいつ不慮の事故や何かで死んでもおかしくないよう、頻繁に彼を傷つけようと画策していた。
彼が自分と結婚後に死んでしまっても、怪しまれないように。
その前から彼を恨んでいた人物がいたことを印象付けるために。
そんな時、綱吉が現れた。
跡部の側にさりげなくいて、ことごとく跡部への攻撃をかわす彼。
――邪魔だと思った。
しかしその時、悪魔の囁きが……いや。
菊峰にとっては願ってもない言葉が聞こえたのだ。
――彼を使い、跡部を陥れれば良い、と。
そのために、一ノ瀬を使ってあの部室に隠しカメラを取り付けた。
そして、跡部が綱吉へと暴力を奮うよう、一ノ瀬を使って噂を流したのだ。
一ノ瀬は前から、一部の女子生徒たちから良く思われていなかった。
それはそうだろう、あんな気の弱そうな――菊峰の後ろにいつもくっついているような少女が、生徒会書記でありまた男子テニス部マネージャーという地位にいるのだ。
跡部やテニス部のファンからも、そして菊峰のファンからとて嫌われて当然。
そんな彼女に、まるで綱吉がやったように傷を付けることなど簡単だった。
アザをペイントすることも、偽物の診断書も、ましてや傷のない肌に包帯を巻く必要もない。
一ノ瀬を良く思っていない少女たちを、少し煽ってやればすむことだ。
そしてそれには、隠しカメラの映像を写真にしたそれが、とても役にたった。
にも、かかわらず――
「…まだ、足りないのかしら」
未だ跡部が綱吉に暴力を奮う様子はない。
その映像が…その事実がなければ、それを使って跡部を脅すことも、また跡部の地位を落とすこともできないのに。
「本当に…私は、あなたのことが心の底から嫌いよ、跡部くん」
私の思い通りにならないあなたなんか。
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