素数的進化論。

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第18話
-大空、時々霧-










「うわあ…」



氷帝学園高等部、三年生のとある教室。

そこで、綱吉、宍戸、上原の三人は、綱吉の机を囲み、思わずその顔に呆れたような表情を浮かべていた。



「面白いくらいにズタボロだな」



宍戸の言う通り、三人の視線の先にあるのは、カッターナイフかハサミによって、見るも無惨な状態になった、一枚の体操服があった。

その胸元に奇跡的に残った、明朝体で刺繍された名前は、それが綱吉の物であるということを示していた。



「っていうか、ここまでするなんて…暇人だね」



「そういう問題か」



三人の中でも特に「下らない」と顔に書いてある上原がそう溢せば、思わずといった様子で突っ込む宍戸。

しかし上原の言う通り、これを行った者は例え複数であろうとかなりの時間を要したであろう。

なぜなら残った布の部分には、バカだの死ねだのと、ご丁寧に罵詈雑言がカラフルなペンによって書かれているのだから。



「ま、昨日の今日で何も仕掛けてこないと思ってた俺が甘かったってことかな…」



一方、そんな二人を他所に、自身の体操服を持って苦笑する綱吉。

昨日の出来事―つまりは副会長に叩かれたり実は無実だったりだとか、ああいうことがあった後では、あまり積極的に何かされることはないだろうと思っていたのだが――。


結果的には、こうして休み時間に少し目を放した隙に、明らかな悪意を向けられることとなった。

それが例えこのクラスの人間の仕業ではなかったとしても――しかしそれを行う者を止める者は、誰一人としていなかったということだ。

昨日の、濡れ衣だったという間違いを見たにも関わらず、綱吉への悪意に疑問を持つ者は、いなかったと。



「ってことで、俺サボりまーす」



「は?」



そんなことを考え、顔を険しくしていた宍戸の耳に届く、いやに軽やかな声。

それに思わず間抜けな声を出せば、隣に立つ綱吉はにこやかに笑いながら体操服をつまみあげる。



「いやだってさ、体操服こんなんだし?」



そしてにこり、そこからさらに最上級の笑みを浮かべ――



「イコール、体育できません、てことで自主休講!」



その表情のまま、サラリとそうのたまった。



「あのなあ…」



その発言に、突っ込むよりも思わず頭を抱えてしまう宍戸。

ちなみに先ほどまで隣にいた上原はと言えば、すでに次の時間に備えて着替えに行っている。

最近よくつるんではいるものの、やはり一匹狼な所は変わらないのか、宍戸を待つ素振りは全くなかった(ちなみに綱吉についてはどうせサボるだろうと予測済み)。



「大丈夫大丈夫、亮が汗だくになってむさ苦しく他の男子生徒たちと1つのボールをまるで犬のように追いかけ回す勇姿はバッチリ見てあげるから!」



「嫌な言い方すんな」




そして宍戸は、結局一人で更衣室へと向かうこととなる。

にこやかに手を振る綱吉に、見送られながら。














「あ?おい誰かいるぞ」



そんな声で目が覚めたのは、宍戸を見送ったあとその足で屋上へと昼寝―もとい自主休講をしに来ていた綱吉で。

気持ちの良いリラックスタイムを邪魔され、若干不機嫌になりつつ身を起こせば、こちらを見つめてくる複数のの男子生徒たち。



「…おい、こいつ沢田じゃねえか?」



そのうちの一人がそう言えば、先ほどまでの顔つきから一変し。

少年たちの顔には、どこか嫌な雰囲気が浮かびだす。



「あの、同じ部活の奴虐めたっていう?」



一方、じろじろと見られている綱吉と言えば、



「(俺も結構有名になったなあ…)」



なんてことを、未だ少し寝ぼけた頭で暢気に考えていた。





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