素数的進化論。
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第17話
-君ガ為、誰ガ為?-
「うっわ…いかにも、やなあ…」
そう言って苦笑する忍足がいるのは、東京のとある場所にある、若者たちのたまり場。
地下にあるそこは照明も薄暗く、若者向けの曲が誰が聞くでもなく、ただただ流れている。
「ちゅーか寧ろ、頭悪い若者の集まる典型過ぎて嘘くさいわ…」
そこは無法地帯のように見えつつ、そこに集まる若者たちには何か共通のことがあるらしい。
それは果たしてヤクザか麻薬か拳銃か。
何にしても、違法なモノであることは確かだろう。
そこにいる若者たちは皆一様に目が濁り、妙な光を放っているのが数人。
意味もなく踊り狂っている者が数人。
そして、先ほどから忍足を観察しているのが、数人。
流石に氷帝学園の制服ではなく、黒目のジーンズにはだけたシャツ、眼鏡はグラサンには変えてはいるものの、その整った容姿からか忍足に集まる視線は多い。
もっとも、ただ単によそ者である彼が珍しいだけなのかもしれないが。
「おい兄ちゃん、お前見掛けない顔「ま、どーせこいつら下っぱの下っぱやろうし。こんなもんなんかもなあ」んだとてめえ!?」
話しかけて来た鼻にピアスをつけた男を無視し、そう言ってやれやれと首を振る忍足。
言葉を遮られ、存在を無視されたこととその台詞。
両方に一瞬でその顔を怒りで真っ赤に染め上げた男は、大声をあげて忍足の胸ぐらをつかむ。
その声に周りからは先ほどよりも多く、そしてはっきりと視線が彼らへと集まり。
しかし忍足は、慌てることも怯えることもなく、ごくごく普通に言葉を返した。
「あ、聞こえとったん?この音楽で聞こえてへんおもたわー堪忍な」
そしてヘラリ、気の抜けた笑みを浮かべる。
一方鼻にピアスをつけたチンピラはと言えば、そんな反応をするとは思っていなかったのか、思わず何も返すことができず。
「っ…「まあまあ落ち着きぃて。人類皆兄弟、暴力反対や」」
しかしおちょくられていると思ったのか、直ぐにまた口を開こうとした所で、にかり、まるでボンゴレ十代目雨の守護者のような輝かんばかりの笑顔を浮かべ、自身の胸ぐらを掴む腕に手を添える忍足。
「………な?」
「……っ……!?」
そしてスッと目を細め。
目は笑ってない、口だけの笑みを浮かべたまま、ギシリ、その手に力を込める。
力の強さと瞳の鋭さ、その両方にチンピラはおののき、咄嗟に後ずさろうとした。
――が、しかし。
「…やないと俺、ぶちギレてしまうで?」
「………っ!」
このチンピラが忍足と自身の力の差を悟るのには、絶望的なまでに遅かった。
「はー…」
薄暗い空間に白々しいほど数分前と同じように流れる、音楽。
しかしそれを耳に入れている人間の数は、先ほどよりも圧倒的なまでに違っていて。
そんな空間に響く、忍足のため息。
「俺、今日めっちゃ働いた。こりゃもう特別手当てとか出てもええんとちゃうん?」
そしてそのまま続けられた声は、なんともまあ情けない声で。
そしてそのまま、ぐたーっと後ろに反れ、次に反動をつけてもとに戻る。
そして忍足は、そのまま世間話をするかのように、彼の腰かけた下にいる若い男に向かい、声をかけた。
「なあ兄ちゃん、あんたもそう思うやろ?」
「………」
しかしそれに返ってくるのは、無言だけ。
それもそのはず。
なぜならその忍足の下敷きとなっている男は、つい数十秒ほど前に、忍足によって気絶させられていたのだから。
「――って、もう聞こえてへんか」
なーんや、つまらんの。
そう呟いて男から視線を反らした忍足は、もう、既に男から興味を無くしていた。
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