素数的進化論。
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第12話
-幕開け-
「ミーティング?」
そう聞かされて、宍戸と綱吉が部室にやって来たのが今から五分ほど前。
今日は部活は休みだったのではと思いつつも扉を開ければ、中は珍しくシンと静まりかえっていて。
全員が集まってから聞かされた言葉に、宍戸は思わず自分の耳を疑った。
「…今、なんて言った?」
相変わらず静かで、それでいて糸を張ったような緊張感の漂う部室内。
そこに、宍戸のかすれた声が響いた。
ああ嫌だ、こんな雰囲気。
思わず眉をひそめるも、それで何が変わるわけもなく。
跡部の口からは、もう一度同じ言葉が繰り返された。
「…沢田は、一之瀬に仕事を押し付けたりしてねえかと聞いたんだ」
「…は、」
――なんだそれ、
「そんなことあるわけ―「じゃあ!!」」
宍戸の台詞を遮ったのは、先ほどまでうつむいていた向日の声。
バッと顔をあげ指差すのは、それにビクリと肩を揺らす一之瀬で。
「っ…じゃあ、一之瀬の腕の痣はなんなんだよ?包帯は!?最近ずっと部室で仕事してんのは!?」
「落ち着き、岳人」
立ち上がって捲し立てる向日を静かに止めたのは、その隣に座っていた忍足で。
「でも…っ」
「岳人」
「……っ」
じっと忍足に見つめられた向日は、やっとその場に腰をおろす。
その顔は、今にも泣き出しそうだった。
「岳人がね、言い出したんだ。それでさやかちゃんに聞いたんだけど…さやかちゃん、何も言わないんだC」
そう言ったのは、一之瀬の隣に座っていたジローで。
「…っ…でも、確かに一之瀬先輩には傷がありました」
「それは…っ」
辛そうにジローの言葉をついだ鳳の言葉に、思わず声をあげる一之瀬。
しかし跡部がそれを制し、その鋭い目を綱吉へと向けた。
「沢田。もう一度だけ聞く。…てめえは、一之瀬に仕事を押し付けたり暴力を振るったり…してやがるのか?」
「………」
その視線を真っ直ぐに受け止めた綱吉は、しかし口にはせず、跡部を見返すばかり。
「沢田!」
「沢田先輩…っ」
否定の言葉を期待しているのか、それとも素直に謝って欲しいのか。
レギュラー達の悲痛な呼び掛けに、綱吉は悲しげに笑って口を開いた。
「…今俺が何かを言って、跡部くんはそれを全て信じられるの?」
「……っ」
その言葉に、思わず声を詰まらせる跡部。
それを見ながら、綱吉は静かに続ける。
「俺はやってないよ。
でも、それを証明することはできない。
…そして、」
そう言って、綱吉はレギュラー達へと視線を移した。
「君たちの不安を全てぬぐいさることも、できない」
「……っ」
そして、その場を支配する沈黙。
「…1週間、部活を休ませてもらっても?」
「…ああ」
頷いた跡部に、綱吉は小さく礼を言って、部室をあとにした。
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