素数的進化論。

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第8話
-日吉若の人間観察-










「あれ?えーと…日吉くん?」



俺の名前は日吉若。

氷帝学園高等部の二年生であり、あの跡部さんの率いる男子テニス部準レギュラーである。

中学生時代には、レギュラーになったこともあるが…しかし高校生となり、またしても準レギュラーとなってしまった。


未だ跡部さんどころか、他の先輩達にすら勝てていない。

レギュラーの座を得ているという意味では、同学年である鳳よりも下である。

……下剋上だ。



「あれ、違ったかな?」



「あ、いえ…」



目の前にいる、ススキ色のまるで重力に逆らうような髪型をした少年は、最近テニス部のマネージャーになった沢田綱吉先輩。

体の線が細くヒョロリとしていて、その顔立ちや雰囲気もふんわりとしたモノであるにもかかわらず、どこかただ者ではない雰囲気がある。



「…よく名前知ってましたね」



移動教室のあと、時間があるからと立ち寄った図書室。

そこで俺は、この先輩から話しかけられたのだ。



「そりゃあ覚えてるよ、テニス部でしょ?」



そう言ってふにゃりと気の抜けた笑みを見せる先輩に、思わず「はあ…」とこちらも気の抜けた返事を返してしまう。



「でも、かなりの数がいるのに…まさかその全員を覚えてるんですか?」



つい先日マネージャーになったばかりで、さほど接点のなかった沢田先輩。

俺はなぜか、この沢田綱吉という人物に興味を持っていた。



「あはは、そんなわけないよ。でもほら、さすがにレギュラーと準レギュくらいは覚えないと」



そう言って笑う沢田先輩。

しかし、準レギュラーと言っても、レギュラーのように数人、という訳ではない。

普通の部員ほどではないとはいえ、かなりの数のはずなのだが…



「覚えたんですか」



「うん」



あっさりと頷きやがった。



「あ、やっぱりそういうの好きなんだね」



その言葉に先輩の視線の先をたどれば、行き着いたのは俺の持つ2つの本。

決して明るい色使いではないそれは、俺の好きな怪談やらそういった類いのモノで。



「……やっぱり?」



「うん、亮に聞いたから」



亮。

……………亮?



「……ああ、」



宍戸さんのことか。


この先輩は、宍戸さんのことを名前で呼ぶ。

しかし部内の先輩達、そして鳳でさえもが宍戸さんのことは苗字で呼ぶため、一瞬誰のことか分からなかった。


そういえばこの先輩、宍戸さんの隣の席らしく、ひどく仲がいい。

昼飯も一緒に食べているらしく、たまに一緒に食べていた鳳が少し拗ねていたような…


しかし俺から見れば、二人はまるでもっと前からの――そう、例えば、子供の頃からの知り合いのように見える。

そしてそれは、部活以外接点のないはずの、忍足さんも一緒で――



「……い、おーい、日吉くん?」



「…っ…あ…」



ハッとして前を見ると、そこには至近距離から俺の目の前で手を振る沢田先輩。



「ボーッとしてたけど、大丈夫?」



「あ…はい、ちょっと考え事を…」



まさか貴方のことを考えてました、などとは言えず、咄嗟に誤魔化す。

まあ、嘘はついていない。



「そっか。大丈夫ならいいけど……時間、大丈夫?」



そう言って先輩が指差した先には、壁にかかった時計。



「…失礼します」



その針の位置を見た俺は、そう言ってあわててその場をあとにした。









「ホント、亮の言う通り………勘のいい子だなあ」



だから俺は、その後ろで沢田先輩がそう呟き、苦笑をもらしていたことなど――知るよしもなかった。






To be continued...

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