素数的進化論。
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第7話
-世話焼き少年-
「何度見ても広い部室だよね…」
無事ジローを部活へと連れてきた後。
綱吉と一之瀬は、ドリンクを作っておくため、テニスコートから部室の中へと移動していた。
そしてその普通の学校の部室よりも広い部室を見回し、綱吉は思わずそうもらしていた。
そんな綱吉に、一之瀬は苦笑いするばかり。
しかもこの部室、レギュラー専用というのだから、流石は氷帝学園テニス部である。
ちなみに、他にも準レギュラー用、その他の部員用の部室があり、ミーティングなどは学校の会議室を使うらしい。
部員数200人以上を誇る氷帝学園テニス部は、部長が跡部ということもあり、学園に対する影響も大きいのだ。
「そういえば、ここの掃除はしなくても良いの?」
どこもかしこも新品のごとく綺麗な部室であるが、しかし綱吉がマネージャーになってからは、一回も掃除をしたことがなかった。
「一応、週に一回はしてるんだけど…年に何回かは、業者さんを呼んで一気にやってもらうの。私物もあるし…」
そう言う一之瀬の言う通り、部室にはよく分からない置物が多い。
男ばかりだと言うのに、あまり散らかっていないのは一之瀬のおかげか、はたまた部員達が綺麗好きなのか。
おそらく、時間の空いた時にでも一之瀬が簡単に片付けていたのだろう。
「これも私物?」
「あっ…」
「え。」
ヒョイ、と綱吉が手に取ったのは、よくある熊の置物。
熊が魚――おそらく鮭を捕る瞬間を掘ったあれである。
それを手にした途端、声をあげ、立ち上がった一之瀬。
その思ってもみなかった反応に、綱吉は思わずその格好のまま固まってしまった。
「ごめん、もしかして触っちゃダメだったかな?」
申し訳なさそうに謝りながら、綱吉はもとある場所へと置物をそっと戻した。
「あ、…ううん!そんなことないよ」
それに対して一之瀬は、一瞬ハッとするような表情を見せたあと、取り繕うかのように笑って見せる。
そして綱吉の側へと歩いていき、そっと置物の位置を直した。
「す…すごいですよね!この置物。これも他のも…跡部くんとか、監督が持ってきたやつで…」
多少つっかえつつも、そう言って説明する一之瀬。
「一之瀬さん」
「は、はい」
そんな彼女を少し無言で見つめたあと、そのままの姿勢で口を開く綱吉。
その呼びかけに、一之瀬はどこか不安げな表情を浮かべる。
しかし綱吉の次の言葉に、一之瀬はその顔に、ホッとしたような笑みを浮かべた。
「そろそろドリンク、作ろっか」
「あ………う、うん!」
それに対し、にこり、笑みを返す綱吉。
ほんわかした雰囲気になり、二人仲良くドリンクを作っていた所で――綱吉のポケットが、微かなバイブ音と共にメールの着信を知らせた。
「あれ?宍戸に鳳も…お前ら今日は自主練してかねーの?」
部活終了後。
レギュラー専用の部室にて、向日から驚きの声があがった。
それもそのはず。
普段ならこのあと自主練習をしていく宍戸と鳳のダブルスペアが、今日は珍しく部活終了と共に制服に着替えていたからだ。
「はい、なんだか宍戸さんが用事があるみたいで」
「珍しいこともあるもんやなー」
「明日は雨でも振るんじゃねーの。なあ樺地?」
「…ウス」
鳳の言葉に、面白そうに言葉を発するレギュラー達。
しかしその中の一名は、宍戸の用事とやらを知っていてからかっているのだが。
ちなみにジローが何も言わないのは、またしても寝ているからだ。
「うっせーな、たまには用事があんだよ!」
そう言った宍戸は、既に着替え終わっていて。
「うわ自分着替えんの早っ!」
そう言う忍足を周りに気付かれないように睨んだあと、自分の荷物を持つ宍戸。
「悪いな長太郎、明日はまた頼むぜ」
「はい!また明日!」
そして鳳の方へと振り返ると、一つ言葉を残して部室を去っていった。
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