企画
□とろけるような笑顔の君に
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「可愛いね」
ある日の午後。
珍しくワンピースにパンプス、化粧も軽く施し、髪も綺麗にセットした、可愛らしい女の子の格好で立つリョーマ。
「暇ならさ、俺らとどっか遊びに行かない?」
彼女は今、チャラチャラしたいかにも、というような二人組に声をかけられていた。
はあ…と、それに心の中でため息をつくリョーマ。
本日何度目になるかも分からないナンパ。
そのワンパターンさに、リョーマはもう冷たくあしらう気も起きないほどうんざりしていた。
「(大体、雪女があんなこと言うから…)」
ブスリ、心の中でふてくされつつ、ここには居ぬ一人の女性を思い浮かべるリョーマ。
彼女がここに一人立つこととなった理由は、その日の朝へとさかのぼる。
そう、それは、リョーマが思い浮かべた女性の一言によって始まったのだ。
「いけません!」
「…何、突然」
その日の朝。
いつも通り、リクオと二人揃って朝食を囲んでいた時のこと。
「聞きましたよリョーマ様!今日はリクオ様とのデートなんですって!?」
「…………そうだけど?」
「そうだけど!?」
「だ、だから何?」
ぐわ!とリョーマの方に身を乗り出した雪女に、思わず背を反らして押され気味になるリョーマ。
ちなみに隣に座るリクオは、我関せずと箸を進めている。
それを恨めしく見る暇もなく、リョーマは雪女に押されっぱなしだ。
「なのにその格好で行こうとしてたんですか!?」
その格好、とは、パーカーに七分丈のジーンズ、という、なんともまあラフなもので。
「…悪いの?」
「悪いに決まっています!大体前から思っていましたが、リョーマ様はご自身の容姿に無頓着過ぎます!!」
センスは良いものの、中学生時代には男として過ごせるようなリョーマである。
その格好はやはり動きやすい物など、機能性が重視される。
それゆえ、今までのデート中も、彼女はいたってシンプルな服装だった。
もちろん、スカートなど履いて出掛けたことはない。
それを知っている雪女は、その度にリョーマに口を酸っぱくして言っているのだが―これまで彼女がそれを聞き入れたことはなかった。
「リョーマ様に口でいくら言っても無駄なことはわかっています。ですから!」
ガシリ、そんな効果音がつきそうな勢いでリョーマの細い肩をつかむ雪女。
「今日は強行手段をとらせていただきます!!」
かくして、彼女は雪女―となぜか化粧道具を準備してスタンバっていたリクオの母―によって、可愛らしい姿になったのであった。
そして場面はもとへと戻り。
「ね?いーじゃん遊ぼうよ」
「―「リョーマ!」…!」
いい加減うんざりしていたリョーマが口を開いた、その時。
リョーマの名を呼びながら小走りに現れたのは、彼女の待っていたリクオ――ではなく。
「不二、先輩…?」
「僕の後輩に、何か用かな?」
かつて通っていた学校の先輩であり、同じくボンゴレファミリーの一員である、不二周助だった。
「久しぶりだね」
開眼し、追い払ったナンパ男たちを背に、そう言って微笑む不二。
不二は、学ラン姿にテニスバックという部活帰りの姿ではなく、彼らしい私服にその身を包んでいる。
「部活じゃなかったンスか?」
中学時代と同じく、青春学園に通っている不二。
そしてテニス部に所属しているのに、今日は部活ではないのだろうか?
そんなリョーマのもっともな疑問に、不二はその顔に微笑を浮かべながら答える。
「今日は部活が休みなんだ。だから、英二たちと買い物にね」
そしてふと悪戯っぽく笑い。
「そういうリョーマは、デート、かな?」
「な…!」
その言葉に、リョーマは思わず顔を真っ赤にしてうろたえた。
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