企画
□おもひで。
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「ああもうほらこれもちゃんと食え!」
色とりどりの野菜。
「言われなくても食べてるよ」
香ばしい匂いのたつ肉や魚。
「あ、亮それ取って」
沢山盛られたフルーツ。
「ん」
栄養バランスの取れた料理の並ぶ机を囲み、食事を取る少年が――一人、二人、…四人。
「ほらリョーマ、これ好きでしょ?」
「ありがと綱吉」
「…………ねえ」
「「「ん?」」」
黒髪の少年、越前リョーマを中心として会話を交わしていた三人は、それを細められた目でじっと見つめていた茶髪の少年、不二周助の呼び掛けに、ピタリそろってそちらを向いた。
「いつも思うけどさ。リョーマって、二人に甘やかされてるというか…よく世話されてるよね」
「あー…」
自覚があるのか、その言葉に苦笑をもらすのは、宍戸亮。
「そう?」
箸をくわえたまま、キョトンとして首を傾げる越前リョーマは、本人としての自覚がないらしい。
「亮だけじゃなくて、俺も?」
「オイ」
そう言ってリョーマと同じく首を傾げた少年は、沢田綱吉。
その暗に宍戸はそうだと言っている言葉に、宍戸は思わず突っ込んだ。
「三人ってさ、いつからそんな感じなの?」
「そんな感じ?」
「兄弟みたい」
「「「………」」」
ぱくり、唐揚げを口に放り込んで言った不二の言葉に、思わず黙って顔を見合わす三人。
「っていうか、…家族?」
「「「…………」」」
そしてサラリと続けられたその言葉に、三人はまたもや顔を見合せた。
「いつから、って言われても…」
なあ、と言って、綱吉に視線を向ける宍戸。
「亮はもう性格でしょ」
「お前もだろ」
「ていうか俺世話されてないし」
「「それはない」」
「……」
どさくさ紛れに呟いたリョーマの言葉に、声を揃えて返す二人。
その即答っぷりに、リョーマは思わずムッとした顔で黙りこんだ。
「ほら、やっぱり兄弟みたい」
そんな三人の様子に、クスリと笑みをこぼす不二。
確かに彼の目の前で繰り広げられる三人の会話は、まるで兄弟の会話のようであった。
「…でも、昔はこんなんじゃなかったよね」
不二の言葉に少し間を空けてそう言ったのは、綱吉で。
その目は昔を思い出しているかのようで、その言葉に残りの二人も頷いて見せた。
「綱吉泣き虫だったし」
そう言ってリョーマがクスリと笑みをこぼせば、
「お前はムカつく奴だったし?」
そんなリョーマに今度は宍戸が悪戯っぽく笑いかける。
「亮は亮で、ガキ大将っぽかったしね…」
そして綱吉は、そう言って苦笑を浮かべた。
「へえ…じゃあ、何かきっかけでもあったの?」
その今の三人からは想像のつかない様子に驚いた表情をしながら、不二はそう言って三人の言葉を促す。
それに三人は、そろって首を傾げた。
「何か…」
「きっかけ…」
―――きっかけ?
ミーンミーンと、セミの鳴く声のうるさい、並盛公園。
夏本番、といった暑さの中、その隅の方で一人、壁打ちをしている男の子の姿があった。
周りの同い年かまたは少し歳上の子供達が元気に遊具で遊ぶ中。
一人帽子を被り、黙々とテニスボールを壁に打ち付けるその小さな姿は、妙に周りから浮いている。
となれば、そんな男の子が気になる存在もいるわけで。
――沢田綱吉。
彼もまた、そんな一人であった。
「なにしてるの?」
六歳、という、小学一年生の年齢としては妙に舌足らずな綱吉は、その見たことのない動きに興味津々、といった様子で、帽子の男の子をその大きな瞳でじっと見つめ問いかけた。
それに壁打ちを止め、綱吉を見る帽子の男の子。
よほど集中していたのか、綱吉が直ぐ後ろにいることに驚いたような顔をしている。
「ね、ね、なにしてるの?」
「…テニス」
繰り返し笑顔で問いかけてくる綱吉に、男の子はぶっきらぼうに、しかしはっきりとそう答えた。
「テニ、ス…?」
「そう」
しかしその聞きなれぬ言葉に、綱吉はキョトリとして首を傾げるばかり。
そんな様子にわかっていないと思ったのか、男の子は足元に転がったテニスボールを指差した。
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