企画

□忘れ物注意報
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「…あれ?」



浮世絵中学校、一年三組。

その教室の中で、鞄の上に置いた自身の鞄の中を覗きこみ、ピタリと固まる少年が一人。

その少年――奴良リクオは、その体制のまま呆然と呟いた。



「弁当箱が……ない」



それは、ある日のお昼休みのことだった。














「何騒いでんの?」



越前リョーマが奴良家へとやって来て、数日がたったある日のこと。

リクオが登校するのを見送った後、ふとある部屋を覗けば、そこに集まる妖怪達の姿。

それに首を傾げつつも声をかければ、一斉にこちらを向く無数の瞳。



「リョーマ様!」



そしてそれにより、その中心にあるモノがリョーマの目にも入り――



「お弁当箱?」



見覚えのあるそれに、リョーマはまたしても首を傾げた。



「どうやらリクオ様が忘れたらしく…」



「それで誰が届けるかでもめてた、って?」



「ええ…」



首無しの言葉に呆れたように問い返せば、こちらも苦笑混じりに返ってきた返事。

そしてまた騒ぎだそうとした彼らを尻目に、ひょい、と、リョーマはリクオの忘れ物を取り上げる。



「あっ…」



「そんなにもめるんなら、俺が行ってくるよ」



そう言って、ゆらゆらと弁当箱を揺らして見せ、リョーマは彼らの返事を聞かずにその場を後にした。















「(せっかくリョーマが作ってくれたのになあ…)」



前日、ひょんなことからリョーマに弁当を作ってもらえることとなり。

ウキウキしながら学校に来たものの、そのせいか逆に忘れてしまったそれ。

そのことに内心かなり落ち込みつつ、ため息混じりに財布へと手を伸ばす。

そして、ああ、購買のパンか…なんて思っていた所で――



「おーい、奴良!」



一人のクラスメイトが、リクオへと声をかけた。



「ん?…何?」



そしてリクオは、彼の言葉に、間抜けな声を出した。



「なんか、和服姿の美少女がお前のこと呼んでるんだけど…知り合い?」



「…………へ?」












「リョーマ!」



その名前を呼びながらリクオが駆けつけた先は、浮世絵中学校の校門前。

そこには確かに、クラスメイトいわく和服姿の美少女――つまりはつい前日再開したばかりの幼なじみ、越前リョーマの姿があった。



「なんでここに?」



全速力で走って来たにも関わらず、あまり息が乱れていない所は流石といった所か。

そう尋ねたリクオに、リョーマは少しだけ不機嫌そうな表情をつくり、左手に持っていたモノを見せる。

ちなみに彼ら、その珍しさ故かかなり見られているのだが――気付いていないのか、気にしていないのか。

全く動じることなく会話を続ける。



「これ」



「あ」



それを見た瞬間、嬉しそうな顔をした後直ぐ様申し訳なさそうに眉を下げるリクオ。



「ごめん……でも、ありがとう」



そしてリョーマから弁当箱を受け取り、安心したように笑うリクオを見て、柔らかな微笑を浮かべるリョーマ。



「いーよ。でも、残さず食べてよね」



「もちろん!」



即答したリクオに、驚いたような表情になるリョーマ。

しかしその顔は、またしても直ぐ様笑みへと変わり。



「でも…ごめんね、届けさせちゃって」



それに気付いて口元を引き締めていれば、そう言って、またしても眉を下げるリクオ。

それに首を振り、気にするなと伝えてやる。



「ううん。……見てみたかったし、ね」



「そっか……って、何か言った?」



リクオは、リョーマの返事に安心したように笑うが、その後付け足された言葉は聞こえなかったのか、首を傾げて問いかける。

しかしリクオに聞かせる気はなかったのか、リョーマはまたしても首を振る。



「なんでもない」



「……そう?」



それでもまだ気になるような表情を見せるリクオ。

そんな彼に苦笑を浮かべた後、リョーマは携帯の時計を見せて急がせた。



「そんなことより、早くしないと食べる時間なくなるよ?」



「あ…!…じゃあ、僕行くね!ありがとうリョーマ!」



その時間にハッとすると、リクオは慌て校舎の中へと戻っていった。






忘れ物注意報


そして少年は、クラスメイトに取り囲まれた。

(おい奴良!誰だよあの美少女!?)(え?えっと…あはは)

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