企画

□笑んだは修羅か羅刹か
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「………」



こほん、と小さく咳をこぼしながら、綱吉は握って当てた掌で隠した口元に苦笑を浮かべた。

そして「困ったなあ」と心中で呟くも、目の前で起こる現状は変わるはずもなく。



「おとなしくしやがれぇ!!」



覆面を被りその手に刀を持った男たちの怒鳴り声が、小さなスーパーに響き渡った。











その日の綱吉は風邪気味だった。

というより、鼻水は出るわのどは痛いわ体はだるいわと、熱こそ出ていないものの立派な風邪ひき状態だと言えるだろう。

その理由は昨夜冷え込む中、薄着で長時間野良猫と戯れていたからであり、そのことについて部下である要には散々注意と言うか小言というか、説教を受けたのだが――まあ、それは置いておいて。


そんな状況でも熱は出ていないのだからといつも通り執務室に向かい仕事をしようとしていたら、要にさっさと病院に向かい薬をもらって部屋で寝ていろと追い出されてしまった。

それでもこっそり仕事をしようとしたのだが、それは残りの2人の部下に見つかりすぐさま要へと報告されてしまった。

正直そのやり取りに3人の上司は自分なのにと思わないでもなかったが、2人にも心配をされているということを態度で示され、その上要に「上司がそんな状態で仕事を続けていては部下が休めない」と言われてしまえば従うしかない


ちなみにその言葉は前世においてあの暴君な家庭教師様からもっと乱暴な言葉で―それも何度も―聞いたような言葉だったため、そういう意味でも耳に痛かった。


とにもかくにもそんな経緯の後綱吉はおとなしく病院へと向かい。

その帰りに何か果物でも買って帰ろうとよったスーパーにて、覆面を被り刀や銃といった物騒なものを持った男たちに出会ってしまった、というわけである。

この現状に、何と言うか、本当に自分はトラブルに巻き込まれやすいなあ、なんて、綱吉は思わずしみじみと思った。


男たちが店内にいた客や従業員たちの手足を縛り終えた頃、店の外が騒がしくなってきた。

おそらく店内の異変を感じ取った誰か―もしくはうまく逃げられた誰か―が通報したのだろう。

そんな綱吉の考えを肯定するかのように、店の外からスピーカーを通した聞き覚えのある声が聞こえてきた。



「あー、テステス。…土方死にやがれコノヤロー」



「総悟ォォオオォ!!!」



「嫌だなあ、土方さん。ただのマイクチェックでさァ」



「もっと別の言葉があんだろーが!」



「あ、間違えた。最後のは本音だった」



「なお悪いわアァ!!!!」



「…ふざけないでさっさと呼びかけてください」



いつも通りの沖田と土方のやり取りの後に聞こえてきたため息交じりの声に、綱吉はおや、と内心驚く。

それは、現在執務室にて書類整理をしているはずの要の声だった。

そのことから、この男たちはただの強盗ではなく、過激派の攘夷志士なのだろうと推測する。

覆面に隠れて分からないが、あの下にはおそらく綱吉の見たことのある顔もいるのだろう。

でなければ、綱吉が風邪で休みを取っているという人手不足の状態でわざわざ要を引っ張り出しては来ない。

いや、まあ、今現在真選組では風邪が流行っているためどこも人手不足だという理由もあるだろうが。


まあどんな理由にしろ、綱吉と要、2人の上司が抜けた執務室では、きっと今頃犬山と遠間が2人で頑張っているに違いない。

最近は攘夷志士が何度か小さな騒動を起こしたこともあり、屯所内すべての書類が集まる執務室には、多くの書類がたまっているんだろうなあなんて、なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

綱吉たちの仕事にはそれらの書類を不備がないかすべてに目を通すことも含まれており、副長補佐である綱吉でないと処理できないものも少なくないはずだ。

早く治して仕事に復帰しよう、と思ったところで、そのためにもまずはこの事態をどうにかしなければと改めて男たちを観察しようと自然な動作で店内を見回す綱吉。


――とそこで、1人の小さな女の子が、恐怖からだろう、その大きな瞳にこぼれんばかりの涙をためているのが目に留まる。

すぐそばにいる母親だろう女性が小声で慰めているのだが、縛られた手足では女の子を抱きしめることもその頭を撫でることもできなくて。

やがて女の子は、耐えられなくなったように声を上げて泣き出した。

そんな彼女に、強盗たちが優しい態度で接するはずもなく。



「うるせえ!黙れ!!」



こんな時でもいつも通りな沖田達とのなかなか進まない交渉へのいら立ちも相まってか、男の1人が女の子に銃口を向け――



「……っ!!!」



パン!という音と共に発せられた弾丸は、女の子ではなく天井に当たりパラパラと天井の破片を落とした。


そうなるように男が銃を打つ一瞬前にその手を上に向けた綱吉は、驚いた表情を浮かべる男にニコリと笑みを見せて。

パラリ、体に引っ掛かっていた先ほどまで彼の腕の自由を奪っていたロープが、ゆっくりと床に落ちた。











「バカじゃないですか」



「…いやあ、まさか倒れちゃうとは思わなくて」



「バ カ じ ゃ な い で す か」



「うぐう…」



自身の私室にて、綱吉は布団の中にいる状態で要に看病―もとい、本日3度目になる説教を受けていた。

あの後、綱吉は瞬く間に男たちをのしてしまい、1人の死傷者も出すことなくスピード解決となった。

それは本当にあっという間のことであり、不調のせいかうまく手加減ができず未だ男たちが目を覚まさないため事情聴取ができていないのだが―それはいいとして。

男たちを全て倒し終わったあと、外に出た綱吉は駆け寄ってきた要に一言二言報告を行うと、ふにゃりと気の抜けた笑みを浮かべ「あとはよろしくね」と言って気を失い倒れてしまったのだ。

それに真選組はいくら綱吉が強いと言えど多勢に無勢、撃たれたかもしくは切られたのかと一時騒然となったものの、綱吉を受け止めた要により風邪が悪化しただけだと分かり。

そのため2人は他の隊員たちより一足早く屯所に戻り、現在目を覚ました綱吉は要から説教を受けている、というわけである。




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