企画

□選択の時
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――ああ、めんどくさい。

口々に何かを言っている―おそらく、というより確実に自分に対する悪意ある言葉なんだろうけれど―同じ部活の人達をぼんやりと見つめながら、切原赤也は急激に冷めていく自分を感じていた。

先月までは確かに仲間であった者たちの言葉など、もはや音としても入ってこない。

しいて言うならば、それはノイズ。

耳に入ってはいても、脳まで届かない、そんなもの。



「(今日の晩飯何だろ…)」



不の感情を抱くのも、それを誰かにぶつけるのにも労力を使う。

しかしそれがまったく意味を持っていないと知りもせず―例えるならぬかに釘、もしくは馬の耳に念仏、だろうか―口々に悪意ある言葉を発している少年たちを尻目に、赤也はのんきにそんなことを考えていた。

確か今日は久しぶりに遊びに来るし、と脳裏に浮かぶのは、他行に通う親戚と幼馴染。

なぜか偶然にも自分の通う学校のライバル校の、しかもそれぞれ時期部長候補と副部長候補と言われるような彼らは、赤也を中心に実は仲がいい。

スネイクなんて名前の技を持つ幼馴染は、生意気な後輩と幼馴染とよく喧嘩をしている友人―というと2人はそろって違うと言うが、どう見ても仲の良い友人だ―も連れてくると言っていた。

そのことからも分かるように、彼らの関係は青春学園では知られており、以前あそこの部長に会いに行ったときには先輩に対する態度ではないとこっぴどく怒られたっけ、なんて考えている赤也の頭の中には、もう目の前の少年たちの存在など欠片もない。

もしかするとなぜこの場にいるのかすらも忘れてしまっているかもしれない赤也にとって、大切な友人と目の前の彼らなど比べるまでもないほどにその存在には差があるのだ。



「――ちゃんと聞いているかい?赤也」



とそこで、久々に言葉として耳に入ってきた雑音。

それは、ぼうっとしていた赤也に気付いた部長のもので。

肩を押され強い口調で言われたため、やっと入ってきたそれ。

「人の話を聞くこともできなくなったの?」と口元に嘲るような笑みを浮かべた彼に、しかし赤也は以前のように恐怖を感じることはない。

――だってもう、興味がないのだから。

そう考えて、そういえば自分はとことん仲間とそれ以外の差が激しい、と氷帝学園なんて名前のお金持ちの集まる学校に通う親戚に呆れられたことを思い出す。

こういうところか、と思うもしょうがない。

だってそれが、切原赤也なのだから。

――とそこで、ふと目に入った時計。

その針が示す時間を見て、赤也は少しだけ目を見開く。



「――赤也?」



それを目ざとく見つけたのは、真正面に立っていた部長で。

また口を開こうとする彼を、赤也は遮るように口を開く。



「あー、もういいっすわ。信じてた俺がバカでした。…いやまあ、そんな信じてもなかったけど」



そして発した言葉に、少年たちは目を見開く。

それまで何も反論しなかった―いや、この騒動の起った初めの頃はしていたけれど、それを聞き入れる者がいなかったのだ―後輩が口にした、拒絶の言葉。



「赤…」



「俺もうこの学校辞めるんで。オ騒ガセシテスミマセンデシタ」



何かを言おうと口を開くも、それは明らかに心のこもっていない、ぞんざいなセリフに遮られて。

いや、赤也は遮ったことにも気づいていないだろう。

なぜなら、彼の目にはもう、少年たちは映っていないのだから。


そして赤也は、「お世話になりました」なんて他人行儀な言葉を残し、スタスタとその場を後にした。

呆然と自分の背を見つめる少年たちを、1度も振り返ることなく。











「もしもーし?」



着替えるのがめんどくさかったので荷物だけ持った赤也は、もう明日からくぐることはないだろう門を抜けながら、携帯を取り出して。

そしてかけた相手は、予想通り駅に着いたばかりの幼馴染。

珍しく部活が休みだった彼とその仲間、そして自分の親戚は、どうやら一緒に来たらしい。

ガヤガヤと電話の向こう側から聞こえてくる聞きなれた声に、自然と口元に笑みが浮かぶ。



「俺もう終わったから。今から行く」



そう言って、2、3言葉を交わした後にしまう携帯。

そして駅の方へ足を進めながら、久しぶりにテニスができると、赤也はその目に喜びの色を宿した。





選択の時


――見限られたのは、彼か、彼らか。


(んー…次どこ行くかなあ)(ふしゅ〜。うちにはくんじゃねーぞ)(うちもお断りだ)(青学か、氷帝か…)((聞け))

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