企画

□ある晴れた日のこと
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暦の上では秋を迎えたものの、未だ強い日差しが降り注ぐ中。

今日も今日とて依頼の来なかった万事屋メンバーは、定春の散歩がてら全員で公園へと出かけていた。

元気に走り回る子どもたち―というか、定春に乗った神楽に新八が追いかけられているのだが―をよそに、銀時は1人ベンチに座りだらけている。

足を広げ背もたれにだらりともたれ掛るその姿は、まさにマダオの雰囲気にあふれていた。



「銀は行かなくていいの?」



「あー?いいんだよ。銀さんは休憩中」



「休憩中?」



「休憩中」



とそこで、クスクスという笑い声が聞こえてきて。

それまで自然に言葉を返していたものの、初めて後ろの存在に気付く銀時。

自身の背後にごく自然に立ち、なおかつ聞き覚えのある声に仰ぎ見るようにそちらに視線を向ければ、視界に写るのは逆さまになった幼馴染の顔だった。



「おー、綱吉」



その予想通りの人物に、銀時はそのままの状態で言葉を返す。

いい歳をして昼間っからフラフラしているようにしか見えない―まあ実際そうなのだが―銀時とは違い、真選組の隊服にその身を包む綱吉は、どうやら見回りの最中らしい。

銀時のだらけきった様子に苦笑を浮かべながら、ベンチの前へと移動する。



「何してるの?こんなとこで」



「定春の散歩だよ、散歩」



「…散歩?」



銀時の隣に腰かけながら、綱吉はその言葉と目の前で繰り広げられている光景―相変わらず追い掛け回されている新八―のズレに、首を傾げる。

しかし銀時はそれをさして気にしたそぶりも見せず。



「たまにゃあ散歩もしてやんねえとな」



「…ふうん?」


ベンチに深く腰掛け鼻をほじりながらそうのたまう飼い主様に、含みのある相槌をうつ綱吉。



「…何だよ」



「別に?」



「……」



「……」



ジロリ、と横目で見てくる銀時に、綱吉はすました表情で返し、その目を子ども達へと向けて。

そして自然と黙る2人。

子ども達の楽しげな―かどうかは微妙だが―声と共に、柔らかな風が2人の頬を撫でる。



「…平和だねえ」



そんな中、穏やかな表情でぽつりと呟く綱吉。

その目は、優しい光を宿していて。

それをチラリと横目で見た銀時は、緩む頬を隠すように綱吉とは逆を向き、口元を手で覆う。


綱吉のそんな表情は、かつてよく見たものだった。

それは、まだ恩師が生きていた幼き頃。

高杉や桂をからかっていた銀時が、ふと恩師と共にそんな3人を見つめる綱吉に目を向けた時。

彼は、今と同じように―まるで、わが子を見守る親のような、すべてを受けとめ包み込む大空のような、そんな表情をしていて。

あの時も、そして今でさえ。

それが自分に向けられたものでなくとも、どこかくすぐったくて。

そんな気持ちを誤魔化すように子ども達に目を向ければ、未だにぎゃあぎゃあと騒いでいる2人と1匹。

そのいつも通りの光景に、思わず呆れたような表情になり。



「………」



そこでふと、ああやって騒ぐ子ども達をこうしてのんびり見ることができることに、自然、柔らかくなる心。

らしくないと思いながらも、ああそうか、あの時の綱吉や恩師は、こんな気持ちだったのかと納得して。

そしてそれと同時に、もうあの頃とは違うのだと、寂しさも悲しさも感じはしないけれど、ただそう思って。

と、そこで、逃げ回っていた新八と目が合う。



「ちょっ銀さん!!何のんきに沢田さんと話してんですか!見てないでさっさと助けろやあぁあぁあ!!!」



「ちょ、おま、こっちくんな…!」



そして叫びながらこちらへと走り寄ってくる新八。

となれば、彼を追う神楽や定春がこちらに気付かないわけがなく。

そのまま仲良く近づいてくる子ども達に、銀時はあわてて逃げだした。

そしてわあわあと騒がしく声をあげて走り回る彼らに、思わず綱吉は声をあげて笑い出す。

変わってないなあなんて、新八と並び走る銀時に、かつての姿を重ねて。

――とそこで、綱吉に向かって差し出される、1本の細い腕。



「ツナ、何してるネ!速く乗るアル!」



そしてかけられた声に、綱吉は一瞬キョトンとして。

しかしすぐに笑顔を浮かべると、その手をとって定春の背に飛び乗った。





ある晴れた日のこと


――僕らは、いつまでも変わらない。


(……補佐)(…はい)(いつ見回りに出かけたんでしたっけ)(…午前中です)(今は何時ですか?)(…)(な・ん・じ・で・す・か?)(……5時、です)(…で?)(…ごめんなさい)

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