素数的進化論。U

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第49話
-バラの棘-







選手やマネージャーたちが夕食を終え、入浴兼自由時間の頃。

外はもうすっかり闇に包まれ、気持ち良い風が吹いていた。



「いきなり悪かったな」



そう言うのは、合宿所内の一室―おそらく会議室かなにかなのだろう、ロの字型に机が並び、ホワイトボードまである―の前方、集まったメンバーを見渡せる位置に立つ跡部。

その斜め一歩後ろには、いつものように樺地が立っている。

そしてその他のメンバーは、それぞれ椅子に座り2人を見つめる。

跡部のメールによる招集に集まった氷帝メンバーは、現在急遽ミーティングを行おうとしていた。



「ホンマやで。…何かあったん?」



苦笑交じりにそう問いかけてくる忍足に、跡部は真剣な表情で「ああ、」と頷いて。

ここ数日で様々なことが起こっていることもあり、また跡部のいつにない真剣な表情からも何かを感じ取ったのだろう。

皆一様に不安げな―とはいえ跡部が何を話すのかル程度予想のついている者たちはただ真面目な―表情を浮かべる。

その様子を見回した後、跡部はそのうちの1人、菊峰へと視線を定め。



「単刀直入に言う。―菊峰。一之瀬と沢田をめぐる一連の騒動の裏にいたのは、お前だな?」



「…!」



跡部の言葉に、誰かが息を飲む声が聞こえた。

そして室内の視線が集まる中、しかし菊峰は顔を青ざめるでもなく、動揺を見せるでもなく。

むしろ口元に笑みさえ浮かべて、余裕を感じさせる態度で跡部を見返した。



「姉崎さんが行っていたのではないの?」


「確かに姉崎はいじめの実行犯だが、姉崎に写真と共にその指示を出した奴がいる」



「それが私、だと?」



「ああ」



「…私はこの子の友人よ?友人が傷つくようなことをしたというの?」



この子、と言って菊峰が目で示したのは、隣に座っていた一之瀬。

跡部もそれを追うように、そちらに一度目をやり。



「…ああ、そうだ」



そう言って、菊峰へと視線を戻ししっかりと頷いた。



「証拠は?」



しかしそれでもまだ、菊峰の余裕が崩れることはない。



「私がその手紙を出したという、証拠。幼い頃からの友人を傷つけたという証拠はどこ?」



その言葉に、跡部は菊峰から目をそらすことなく後ろに控えていた樺地の名を呼び、受け取った資料を机の上にばらまいた。

そこには、2人の人間がそれぞれ違う家のポストに何かを投函している写真があった。

しかしそれだけでは、これが何を意味しているかは分からないだろう――菊峰以外は。

それを表すかのように誰もが怪訝そうな表情を浮かべる中、ただ1人菊峰だけが小さく目を見張った。



「お前の家の部下が、姉崎と岳人の家に手紙を入れている写真だ」



「!!」



驚愕の表情で菊峰を見るレギュラー陣。

しかし跡部は、彼らの混乱や驚きが収まる前に畳み掛けるように口を開いた。



「お前は一之瀬を使い部室にカメラを設置した。そのカメラについてはうちの人間が回収済みだ」



その言葉に、鳳が思わず「いつの間に…」と小さく呟いた。



「前々からファンの間に流れていた写真の中に部室で撮られたとしか思えないようなものがたまに紛れていたからな。…もしかしたら、とは考えていた」



それに跡部はそう言って苦々しい表情を浮かべた後、言葉を続ける。



「そしてお前はその写真を使い姉崎を動かした。…沢田との間に何があったかは知らねえ。あるいは沢田もただの駒の1つでしかなく、本当に嵌めたかったのは俺たちのうちの誰かなのかもな。なんにしろお前は部下を使い姉崎に写真を送り、その後同じように岳人へと手紙を送った。そうして2人を自分の思い通りに動かした。――違うか?」



そう言って、まるで睨みつけていると表現できるほどの強い瞳で菊峰を見つめる跡部。

その視線を受けた菊峰は、しかし未だ動揺も狼狽も見せることはなく。

いっそ堂々とした態度で、その口元に笑みを浮かべた。



「――60点、ね」



「あーん?」



笑みと共にこぼしたその言葉に、跡部はピクリ、眉を上げる。

そして室内の人間たちが困惑や不安、疑問やあるいは達観といった様々な表情で見つめる中、菊峰は前髪をかきあげ足を組んで口を開いた。



「私の行動については正解。だけど肝心のその理由が違う。私が本当に狙っていたのは沢田くんでも他のメンバーでもなく、跡部財閥よ」



「なに…!?」



自分の言葉によって周りのメンバーと同じく驚きの表情になる跡部を楽しそうに眺めると、菊峰は言葉を続ける。






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