姫はマのつく王子様!

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正直な話、俺は暇だった。

有利は魔王としての執務があるけれど―ギュンターがここぞとばかりに説明してた。ちなみにコンラッドはその隣で笑ってたっけ―だけどそんなもの俺にはない。

その上水族館へ行く以外何の準備もなくこの世界へやってきた俺が、時間をつぶせるようなもなんてそんな都合良く持っているわけがなくて。


普段なら暇さえあればテニスをしていた俺だけど、ここにはコートどころかラケットとボールさえもない。

それじゃ一人で自主練だってできやしないでしょ?

地球に行ったことのあるコンラッドの働きかけで野球の道具はあるみたいだけど―有利が嬉しそうに教えてくれた―有利と違って俺は野球には特に興味ないし。

だからと言って机の前に座ってギュンターやコンラッドにこの世界の文字を教わる気もおきない。


というわけで時間を持て余した俺は、場内を一人探検する事にした。

迷子になったら困るからと付いてこようとしたコンラッドをまくのはちょっと大変だったけどね。



「……?」



でまあ、一人でブラブラと歩いていたわけだけど――そんな俺の足元に、突然何かが転がってきた。

それを見て、俺は思わず首を傾げる。



「……なんでこんな所に?」



足元に転がってきたもの――それは、綺麗に丸められた淡いピンク色の毛糸だった。



「………」



俺は無言でその毛糸の伸びる先を見つめる。

するとそこには、この毛糸の球が通れるくらいの隙間が開いた扉があった。

俺はその扉と足元の毛糸を少しの間見比べると、それを手に取り。

コンコン、と軽くノックをした後、その扉を開いた。



「………………グウェンダル?」



「……?……!?」



そこには、所狭しと並べられた毛糸制のぬいぐるみと、色とりどりの毛糸の入ったカゴ、そしてその真ん中で新しい作品を作っている――フォンヴォルテール卿グウェンダルの姿があった。

自分の見ている光景が信じられなくて、確認するようにその名を呼べば、顔を上げて俺の顔を見た瞬間、驚きに目を見開くグウェンダル。



「なっ…な、…なぜ、ここに…!?」



震える指でこちらを指差しながら、必死に取り繕いつつも絞り出すような声で問いかけてくるグウェンダル。

それは、短い付き合いとはいえ見たことがないような姿で。



「なぜ、って……これ」



それに俺は、そう言って手に持った毛糸を示す。



「廊下に転がってたから」



「そ、そうか…」



「うん」



「……すまない。感謝する」



「うん」



「……」



「……」



咳払いの後そう言ったきり、気まずげに―そりゃまあ恥ずかしいよね、特にこの人なら―目をそらして黙り込むグウェンダル。

だけど俺はそれを気にせず、拾った毛糸をカゴに戻した後物珍しげに室内を見回す。



「これ、全部あんたが作ったの?」



「……ああ」



俺の質問に、少しの間の後諦めたようにため息をついて答えるグウェンダル。

ま、作ってるとこをバッチリ見ちゃったしね。



「ふうん…これ全部?」



「ああ」



「スゴいじゃん」



素直な気持ちをそのまま口に出せば、なぜか驚いたような表情をするグウェンダル。

だけどグウェンダルに背を向けている俺は、それに気づかない。


俺の見つめる先にあるのは、本当に所狭しと並べられたグウェンダルお手製の編みぐるみ達。

様々な色と形のそれらは、この部屋いっぱいに溢れている。

…ってちょっと待って。

確かこの人って――





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