姫はマのつく王子様!
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「どこへ行かれるんです?」
キョロキョロしながら王城の中を歩いていると、向こうからやってきたコンラッドに話しかけられた。
「魔王陛下のプライベートバスにね」
「……着替えも持たずに?」
「日本に帰るんだってさ」
手ぶらな俺に怪訝そうに聞いてきたからそう答えれば、有利との付き合いがそこそこに長いらしいコンラッドは、それだけで理解したのか「ああ、」と言って頷いて。
「だからその格好なんですね」
そう。
コンラッドの言葉通り、俺は“その”格好――つまり、眞魔国へやって来た時の服装だった。
有利が言うには、こちらでいくら時間を過ごそうと、向こうでは一瞬の出来事でしかないらしい。
だからその時と同じ格好をしていないと――おかしなことになってしまう。
そういえば向こうのことは考えてなかったけど、確かにそうでもなきゃ何度もこっちに来てるらしい有利は、何度も失踪していることになるしね。
第一今回のことにしたって、イルカのプールに落ちて数日間姿が見つからなければ、それはそれは大事件になるだろう。
「珍しいですね、準備をして帰るなんて」
「そうなの?」
「ええ、今まで陛下は今回を含めて三回こちらの世界へ来ていますが……以前もその前も、帰ろうとして帰ったというよりは、気付いたら帰っていた、という感じだったんですよ」
「ふうん……」
そんな話をしながらコンラッドにプライベートバスへと連れていってもらう。
日本に帰る準備をしてそこに集合、と言って有利はすぐにいなくなったから、正直言って俺、迷ってたんだよね。
そしてやがてプライベートバスへとたどり着いたその時。
中からバッシャーンと、水に何か重さのあるものがおちる音が聞こえてきた。
それに思わず顔を見合わせる俺たち二人。
「……何してんだろ」
「さあ…でももしかすると、陛下が先に向こうに帰ってしまったのかも」
困ったような表情でも言うコンラッドの言葉は、なるほど確かに頷ける。
だってここまでの道で聞いた話によれば、向こうとこっちを行き来する時、必ず水が媒体となるらしいから。
それに有利なら、うっかり水に入ってそうだし……と考えていると、またしても聞こえてきた水音と――そして、ヴォルフラムと有利の声。
「…違うみたいだけど」
そう言うと、コンラッドはやっぱり困ったように笑って。
「とりあえず、様子を見に行きましょう」
俺はその言葉に頷いて、コンラッドと二人、プライベートバスの奥へと足を進めた。
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