姫はマのつく王子様!
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「…なあそこ、もしかしてゾンビさんなのか!?だとしたらおれ特に危害は加えませんからッ!ナイストゥーミーチューでハブアナイスウィークエンドだから」
「…有利?」
ノリカさん―俺が泥人形から庇ったあの人―がその場を見れるように、コンラッドと一緒に簡素な墓…っていうより、むしろ砂の山の側で松明を持っていると。
そこに聞こえてきたのは、見事なまでの片仮名英語。
どうやら有利が目を覚ましたらしく、俺達だと分かるとこちらに駆け寄ってきた。
「コンラッドにリョーマに…もしかしてノリカねーさん?」
ノリカさんのことを知っていたらしく、自分の登場にもノーリアクションで未だ土を掻いているその様子に、驚いたような表情をする有利。
っていうか、
「ヴォルフラムは?」
確か有利の側にいたはずだけど。
「え?ああ、今食べ物を取りに…」
ってそれ、完璧に有利の分だよね。
「…なのに有利はその場を離れて探検、てわけ?」
はあ、と呆れたように―まあ実際あきれてるんだけど―ため息をつけば、俺の言いたいことが分かったのか、コンラッドへと話しかけて話をそらす有利。
「こ、こんな夜にこんなとこ掘ってどーしたの?」
「探し物ですよ」
コンラッドはそう言って肩をすくめ、何の問題もなさそうに微笑んだ。
そして周りの様子を見せようと、松明を高く掲げる。
「ほら、もうここしか残ってないので」
コンラッドの言う通り、もうここしか残ってない――砂の盛り上がり。
整然と並んでいたそれは、すでにもう、ノリカさんの手によって掘り返されている。
一心不乱な彼女を手伝おうと、どこかぎこちない動きでその場にしゃがみこむ有利。
だけどそれを、ノリカさんは俺に言ったことと同じ言葉で制止する。
「いいんだよ、あたしの子供だから。あたしが一人で捜すんだから」
あたしが一人で――自分の手で捜したいんだから。
「子供って……」
ノリカさんは少し顔をあげると、有利のコンタクトのとれて元の色になった、黒い瞳をのぞき薄く笑った。
「ありがとう。マルタの赤ん坊を助けてくれて。それに多分、あたしたちのために、あいつらを懲らしめてくれてありがとうね」
ノリカさんの言葉に、あからさまに「しまった!」という表情をしてコンラッドを見る有利。
そんな彼にコンラッドは声に出さず「例によって、」と唇だけを動かし、そして続いて情けない顔で恐る恐るこちらを見てきた有利に、俺も唇だけを動かして「バーカ、」と言ってやった。
すると、とたんにますます情けない顔になる有利。
…後でちゃんと、色々説明してもらうからね。
「あんた本当は、マーボーなんて名前じゃないんだね」
「おれが怖くないの?今まで会った普通の人間は、黒は不吉だって大慌てだったけど」
「怖いものですか」
気まずいような、嬉しいような、そんな妙な表情で尋ねた有利に、ノリカさんは笑ってその頬に触れた。
「もっとよく見せて。お願い、灯りを近づけて。
ああ本当だ、ほんとに深く澄んだ黒をしてる。こんな綺麗な瞳は見たことないよ。
あの人は王都で一度だけ、ずっと昔の賢者様とお姫様の肖像画を見たんだって。その絵がどんなに気高く美しかったか、何度もあたしに話してくれた。あんたみたいに知性を持った黒の瞳と、同じ色の艶めく髪をしていたんだってさ」
「あの人?」
「あんたたちと同じ、魔族だったの」
ノリカさんに言われるままに灯りを近づけていた俺が問えば、ノリカさんはそう言って悲しい笑みを浮かべた。
そしてまた、穴ほりを再開する。
言葉にしなくてもわかる。
“あの人”が、今ノリカさんの探している子供の父親だ。
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