姫はマのつく王子様!

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「……やっぱり」



様子を見に行きたくて気も漫ろな兵隊から計画通り制服を―肩透かしをくらうほど簡単に―奪いとり、俺達は易々と敵地へと潜入できた。



「…なに、これ」



具合が悪いという理由だけでなく顔色を悪くさせたヴォルフラムと、どこか焦ったような表情のコンラッドについてやってきたそこでには、俺の全く想像していなかった状況が待ち構えていた。


大小取り混ぜた土の盛り上がりが、土地の盛り上がりが、土地の一角に集まっていた。

花も墓標も設えられていないけれど、あれは多分……墓、なんだろう。

理由はないけれど、なぜかそう、思った。

そしてその場所を背中に庇うように仁王立ちしているのは……多分、有利。

少々やつれてくたびれてはいるけれど、大きなケガはなさそうに見える。

それにコンラッドは安堵のため息をつき、ヴォルフラムはすぐにでも駆け寄って抱きつきたそうな顔をしている。


――でも。

俺を含めた誰一人として、有利に駆け寄ろうとはしない。

――否。

しないんじゃなくて、出来ないんだ。

それを戸惑わせるようなオーラを、今の有利は纏っていたから。

普段と違う顔つきやオーラ。

それはまるで、ハイパーモードの綱吉のようで。



「……無償の愛に命を捧げ、健気にも男を信じた女に対し、褒めるどころか鞭打つ冷酷非道な国家の仕打ち……」



地の底から何かが噴き出してくるかのような、細かい震動が近づいてくる。

最初は足の裏でしか感じなかった揺れも、ついには腹まで響いてきた。



「ともに逃げんと誓った者も、我が身かわいさに女を売ったという。そもそも男女のわりない仲は、おなご一人では為し得ぬもの。だのに、か弱き身ばかりに罪を背負わせ、寄場送りとは何事か!」



腹に響いていた縦揺れが、一瞬だけ静まる。



「互いの慕情をもってしか、罪と罰は定められぬというのに、愛し恋ひ渡る二人を裁くのが理も弁えぬ白もひかん!別れろ切れろは芸者の時にいう言葉、白もひかんごときに強いられるものではないわ!」



「……芸者?」



って、行ったことないでしょ絶対。



「あれ、なんか新しい小芝居が混ざったみたいだな」



思わず繰り返した俺の隣で、のんびり呟くコンラッド。

その場違いなほど落ち着いた様子から、ああこういうことは前にもあったんだと理解して。



「しかも更正を謳った施設では、体罰、暴力、極悪待遇。人としての尊厳さえ奪われて、唯一の支えである赤子までも、生きながらにして地中に埋める、地獄の鬼さえそっぽを向くであろう残虐非道ぶり……」



その言葉で、有利がその背に庇うものが何であるかはっきりとわかり、思わず俺は眉をひそめる。



「その行状、すでに人に非ず!物を壊し、命を奪うことが本意ではないが……やむをえぬ、おぬしを斬る!」



「!」



その言葉を言い終えると同時にボコりと不気味な音がして、俺を含めた全員の視線が一斉に墓地に注がれた。

小心な者は気を失い、頑丈な男たちも悲鳴をあげる。

俺はなんとか情けない悲鳴をあげることはなかったけれど、その光景に思わず一歩、後ずさる。


まず一本、続いて二本。

次々と現れるのは、土色の腕。

――だけじゃなく、胸や腰まで伸び上がる者はも現れる始末。

……何のホラー映画だよ、コレ。





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