姫はマのつく王子様!
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「…なんか、暗い」
スヴェレラの首都についた時の俺の感想は、その一言だった。
「気分が悪い」
とそこで、黙って横を歩いていたヴォルフラムが、ひさびさにぼそりと呟いた。
見れば確かに顔色があまり良くない。
「この街には法力に従う要素が満ちている。しかも法術士の数も多い」
「俺には魔力の欠片もないから、そういうことは判らないけど。辛ければ宿で……」
「うるさい」
その言葉に、俺とコンラッドは顔を見合せて。
俺は呆れたような顔を、そしてコンラッドは、苦笑をこぼした。
にしても、魔力のある者は気分が悪くなる、ねえ…じゃあ何ともない俺は、コンラッドと同じく魔力の欠片もないってことか。
ま、当然だろうけど。
「……」
街を歩きながら隣で話している兄弟の会話を聞き流しつつ、俺はここへ来るまでの間にコンラッドに教えてもらったこの街の現状を思い出していた。
数年前に法石が発掘されてから、この国の気候はおかしくなったという。
乾燥地帯に位置するとはいえ、雨期には充分な降雨があったのに、それがほとんど見込めなくなったのだ。
作物や家畜は生き延びられなくなり、食糧の自給率は最低になった。
その代わりに希少価値である法石は、世界的な市場で取引きされた。
上質の物はかなりの高値がつき、逆に質の劣る物は国内に安価で流れた。
屑同然の規格外品なら法力を持たない者までバザールで買えるという。
もっとも石で儲けているのは一部の裕福層だけで、民の多くは雨不足に乾いて飢えていた。
恵みの村雨、とはよく言ったものだよね。
飢餓による不幸な犠牲を出さずに済んでいるのは、家族のいずれかが働き手として、採掘場の労働に従事しているからだろう。
本当に質のいい法石は、女子供の手でしか掘れないと言われているらしいから。
「……」
コンラッドから教わったことを思い出すうちに、もう一つ、思い出す光景があった。
それは、この街の前に立ち寄った場所でのこと。
偵察に向かおうとしたコンラッドに、ヴォルフラムが言った言葉。
「だってお前は、あいつと顔を合わせたくないだろう。魔笛のある場所には恐らくゲーゲンヒューバーがいる」
あの言葉は、何だったのか。
“ゲーゲンヒューバー”
彼がコンラッドにとって、ただの知り合いでないことなんて今までの言葉の端々から既にわかっている。
だけど聞いてもどうせ、コンラッドは答えてくれないから。
だからあの時は、何も聞くことはしなかったのだけれど。
「(そういえば…)」
あの時、情報収集から帰ってきたコンラッドの様子が、少しおかしかった。
深刻な感じじゃあなかったけど、何か、困っているような……
「あっごめんなさ……」
「ユーリ?」
「え?」
コンラッドの言葉に、はっと顔を上げる。
どうやら俺が思い出している間にかなり道を進んでいたらしく、そしてこの目の前にいる少女が、コンラッドとぶつかったらしい。
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