姫はマのつく王子様!
□07
1ページ/2ページ
「……はあ」
頭を振るたび落ちてくる砂にため息をつきつつ、髪の毛をかき回すように頭を撫でる。
やっとこさ砂熊の巣から脱出した俺達は、頭の先から足の先まで、文字通り全身砂まみれだった。
「大丈夫ですか?」
――と、巣からの脱出後も当選のように俺の後ろで馬を操っていた―まあ今の状況では乗ってるだけで良いから楽なんだけど―コンラッドが、そう尋ねながら俺の髪の毛を少量手にとる。
それによって、またパラパラと落ちていった砂に俺は顔をしかめて。
「……大丈夫だと思う?」
――精神的に。
その問いかけに、コンラッドは困ったような笑みを浮かべた。
…良いよね、髪が短くて。
俺だって長いとは言えないけれど、それでも俺より―ああ、隣で同じような状態のヴォルフラムも入れると俺達より―簡単な身繕いだけで体から鬱陶しい砂粒が粗方なくなったのを見ると、無意識のうちに恨みがましい視線を送ってしまう。
「しょうがないですよ。脱出する間は、吸っているのが空気なのか砂なのかさえ判らないほどだったんだから。ほぼ全員が五体満足で抜け出せただけでも眞王のお恵みに感謝しなくては」
「……」
そう言って俺の頭を撫でるように軽く叩いたコンラッドの言葉に、だけど俺の中の不満な気持ちは薄れない。
それを俺の表情―は見えないから、雰囲気から察したのだろう、苦笑をこぼすコンラッド。
とそこに、一人の男が近づいてきた。
「申し上げます!」
「聞こう」
「人馬の数を確認いたしました。獣の唾液で火傷を負った兵が数人おりますが、いずれも軽症で深刻な事態ではありません。しかし馬が……」
「どうした?」
「……二頭増えました」
「「増えた?」」
少しのためらいの後言いにくそうに告げられた男の言葉に、俺とコンラッドの怪訝そうな声が重なる。
増えたって……何で?
「おそらく食糧として巣の中に備蓄されていたのではないかと。それがそのー、閣下が砂熊めを討ち果たされ、我々の脱出に紛れ込んだものと思われますが…」
「………」
………ちゃっかりした馬だね。
口髭をきまり悪そうに撫でながら報告を続けた男に、俺は思わずあきれたような目をしてしまう。
一方のコンラッドは、軽い感じで頷いて。
「ああそう。じゃ、ささやかな戦利品ってわけだ。せっかくだから荷でも運んでもらおうか。疲れた馬から移し替えてやるといい」
「わかりました。それから……」
「まだ何か?」
「……脱走者がでました」
その物騒な響きの言葉に、後ろでコンラッドが眉をひそめた気配を感じる。
そして彼は、おそらく無意識にだろう、声を落として口を開いた。
「言葉に気をつけろ。戦時下でもないんだから脱走扱いはないだろう。離脱者くらいにとどめておけ」
ま、もしかしたらただの逃げ遅れ…ってやつかもしれないしね。
「それで、誰が」
「閣下の隊のライアンです。我々の制止も聞かず、運命の相手に出会った気がするのだとか、わけのわからないことを叫び、コンラート閣下には、いつかヒルドヤードの歓楽郷でお会いしましょうと……どのような意味合いで?」
「ああ、いや、いいんだ。了解した。彼に対して討伐等の必要はない。しづらい報告をさせたな、ボイド。先頭の二人に付いてくれ、警戒の指示を任せるよ」
その指示に従って、前方へと向かうボイドと呼ばれた男。
……にしても、運命の相手、ねえ…
砂熊の巣の中でそんな相手に出会うなんて―…と考えていた所で、ふと思い出す、一つの光景。
………あれ。
もしかして。
.