姫はマのつく王子様!

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「ここは一体どのあたりだ…」



砂熊の巣の中。

一人トボトボと歩きながらヴォルフラムが思い出すのは、つい先ほどまで一緒にいた、双黒の婚約者。



「ユーリは無事だろうか…穴に落ちていなければいいが。
…あ、あいつはへなちょこだから、一人にしたらきっと寂しくて泣いてしまうかも。ぼくは…ぼくが、側にいてやらないと…」



歩きながら呟く声は不安に揺れ、徐々に涙まじりのそれとなる。



「…?…あっ…!」



とそこで、前方に倒れた見知った姿をみつけるヴォルフラム。



「こいつは…」



駆け寄り見下ろす先には、仰向けに倒れた婚約者のイトコ――つまりはリョーマの姿があった。



「眠って…いる、のか…?」



恐る恐るかがみこみ、リョーマの顔をのぞきこむ。

そうしてすうすうという規則正しい寝息を確認し、ヴォルフラムは無意識のうちにホッと息を吐いた。

しかしそれにハッとしたヴォルフラムは、慌てて取り繕うようにフン、と鼻で笑い口を開いた。



「ま…まったく、ユーリといいこいつといい、地球人はへなちょこばかりだな!」



だがヴォルフラムとリョーマ以外には誰もいないそこでは、強がった声は虚しく反響するばかりで。



「本、当に…へなちょこで…」



空元気は長くは続かず、少しずつうつむいていくヴォルフラム。


――とその時、ぴちょん!という、滴の落ちる音が響いた。



「うわあぁっ!……な…なんだ、水かぁ…」



情けない声で叫び、思わずその場で飛び上がったヴォルフラムは、しかしその音の原因をしるとホッと表情を和らげた。

そしてハッとすると、慌てて首を激しく左右に振る。



「っダメだ!この程度で驚くなんて…しっかりしろヴォルフラム!お前は、魔族の軍人なんだから」



まるで自分に言い聞かせるかのように、強い口調で言うヴォルフラム。

しかし徐々に目には涙が浮かび、声も頼りなくなっていって。



「…っこんなことで、心細くなってどうする…っ」



「ヴォルフラム!」



「……え?」



突如聞こえてきた己の名前を呼ぶ声に、反射的に顔をあげるヴォルフラム。

こちらへと走ってくる足音、そしてその声はだんだんと大きくなり、見知った姿が目に入る。



「ヴォルフラム!!」



「ウェラー卿…」



自分の方へと走ってくる兄の姿に、ヴォルフラムは思わず安心したような声でその名を呼んだ。



「ぁ…っ…な、何しに来た!」



しかし直ぐにハッとすると、そんな自分を誤魔化すかのように強い口調で問いかける。

そんな弟に、相変わらずだとコンラッドは笑みを浮かべ。



「無事でよかった。…リョーマ…?」



しかし、その表情はヴォルフラムの足元に横たわるリョーマを見ると直ぐに険しく曇ってしまった。

それにヴォルフラムは、ただ眠っているだけだから安心しろと告げて。



「よかった…」



「…………」



そう言ってリョーマの顔にかかる髪を払い、頬を撫でるコンラッドの安心したような柔らかな表情を、ヴォルフラムはじっと見つめた。



「…変わったな」



「え?」



「な、何でもない!」



無意識のうちに呟いていたヴォルフラムは、聞き返された言葉に強く返し、そのまま歩きだそうとする。

とその背中に、コンラッドが待ったをかけた。



「待て!そっちは行き止まりだ」



「っあ……、…わ、分かってる!そんなの…」



「さっき落ちた兵たちに、抜け道を教えといたから。出口で合流だ。砂熊に出くわさないうちに、俺たちも急ごう」



そう言って、コンラッドは手が使えるようにリョーマを背負う。

その背中に、ヴォルフラムは声をかけた。





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