姫はマのつく王子様!
□06
1ページ/4ページ
「ここは一体どのあたりだ…」
砂熊の巣の中。
一人トボトボと歩きながらヴォルフラムが思い出すのは、つい先ほどまで一緒にいた、双黒の婚約者。
「ユーリは無事だろうか…穴に落ちていなければいいが。
…あ、あいつはへなちょこだから、一人にしたらきっと寂しくて泣いてしまうかも。ぼくは…ぼくが、側にいてやらないと…」
歩きながら呟く声は不安に揺れ、徐々に涙まじりのそれとなる。
「…?…あっ…!」
とそこで、前方に倒れた見知った姿をみつけるヴォルフラム。
「こいつは…」
駆け寄り見下ろす先には、仰向けに倒れた婚約者のイトコ――つまりはリョーマの姿があった。
「眠って…いる、のか…?」
恐る恐るかがみこみ、リョーマの顔をのぞきこむ。
そうしてすうすうという規則正しい寝息を確認し、ヴォルフラムは無意識のうちにホッと息を吐いた。
しかしそれにハッとしたヴォルフラムは、慌てて取り繕うようにフン、と鼻で笑い口を開いた。
「ま…まったく、ユーリといいこいつといい、地球人はへなちょこばかりだな!」
だがヴォルフラムとリョーマ以外には誰もいないそこでは、強がった声は虚しく反響するばかりで。
「本、当に…へなちょこで…」
空元気は長くは続かず、少しずつうつむいていくヴォルフラム。
――とその時、ぴちょん!という、滴の落ちる音が響いた。
「うわあぁっ!……な…なんだ、水かぁ…」
情けない声で叫び、思わずその場で飛び上がったヴォルフラムは、しかしその音の原因をしるとホッと表情を和らげた。
そしてハッとすると、慌てて首を激しく左右に振る。
「っダメだ!この程度で驚くなんて…しっかりしろヴォルフラム!お前は、魔族の軍人なんだから」
まるで自分に言い聞かせるかのように、強い口調で言うヴォルフラム。
しかし徐々に目には涙が浮かび、声も頼りなくなっていって。
「…っこんなことで、心細くなってどうする…っ」
「ヴォルフラム!」
「……え?」
突如聞こえてきた己の名前を呼ぶ声に、反射的に顔をあげるヴォルフラム。
こちらへと走ってくる足音、そしてその声はだんだんと大きくなり、見知った姿が目に入る。
「ヴォルフラム!!」
「ウェラー卿…」
自分の方へと走ってくる兄の姿に、ヴォルフラムは思わず安心したような声でその名を呼んだ。
「ぁ…っ…な、何しに来た!」
しかし直ぐにハッとすると、そんな自分を誤魔化すかのように強い口調で問いかける。
そんな弟に、相変わらずだとコンラッドは笑みを浮かべ。
「無事でよかった。…リョーマ…?」
しかし、その表情はヴォルフラムの足元に横たわるリョーマを見ると直ぐに険しく曇ってしまった。
それにヴォルフラムは、ただ眠っているだけだから安心しろと告げて。
「よかった…」
「…………」
そう言ってリョーマの顔にかかる髪を払い、頬を撫でるコンラッドの安心したような柔らかな表情を、ヴォルフラムはじっと見つめた。
「…変わったな」
「え?」
「な、何でもない!」
無意識のうちに呟いていたヴォルフラムは、聞き返された言葉に強く返し、そのまま歩きだそうとする。
とその背中に、コンラッドが待ったをかけた。
「待て!そっちは行き止まりだ」
「っあ……、…わ、分かってる!そんなの…」
「さっき落ちた兵たちに、抜け道を教えといたから。出口で合流だ。砂熊に出くわさないうちに、俺たちも急ごう」
そう言って、コンラッドは手が使えるようにリョーマを背負う。
その背中に、ヴォルフラムは声をかけた。
.