姫はマのつく王子様!
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「大丈夫ですか?」
眞魔国とコナンシアを分ける川―とは言え今はほとんど干上がってるけど―を見ながら物騒な話をする有利たちの横で、後ろからかけられる声。
結局、有利はヴォルフラムと、そして俺はコンラッドと相乗りしてやって来た国境。
誰もが予想した通り、ギュンターだけは有利―と俺を―しつこく止めたんだけれど、有利によって難なく陥落。
そうして今に至る、のはいいんだけどさ…
「リョーマ?」
「……コンラッド」
「何か?」
返事ではなく名前を呼ぶ俺に、どうしたのかと顔を覗きこもうとするコンラッド。
「いちいち聞かなくて良いよ。水が飲みたきゃ言うし、辛ければちゃんと言うから」
ホントなんなのこの人さっきから。
過保護にも程があるっていうか…俺は有利とは違うんだから、こんな場所で無理することがどういうことか分かってるって言うのに。
……第一、いちいち耳元で囁くように話さなくてもいいと思う。
「すみません、気になったもので」
そう言って俺の背後で苦笑しているだろうコンラッドは、本当に分かっているのかどうか。
なんか、懲りずにまたやりそうに思うのは俺だけ?
総勢二十人余の集団は、ラクダではなく人間達の馬によって砂漠―とはいえここは砂漠とい程の規模ではないらしいけど―を渡っていた。
国境で手の甲を軽く当てて顎を突きだすという魔族を謗る行為―まあ有利に言わせるとアイーンらしいけど―や、槍の穂先をこちらに向けるといった歓迎をしてくれた警備兵たちは、家畜の入国には検疫が必要で、それには最低でも二十日はかかると言ってきた。
有利はそれに、なるほど一理あると頷いてたけど…検疫にしたって二十日はかかりすぎでしょ。
つまりそれは、明らかな嫌がらせって訳で…それは小さいものだけど、地味な分ムカつくよね。
で、それまで乗ってきた魔族の軍馬―ちなみにミニ知識によると心臓は二つ―を引き返させ、コナンシア国境の街で現地の馬を買ったってわけ。
「どうしてあんたたち暑くねーのォ?」
ヴォルフラムと相乗りをしている有利が、こちらを振り返って弱音をはく。
「訓練かな」
それにコンラッドは余裕綽々、涼しい顔で答えたわけだけど。
……ふざけんな。
「俺は暑い」
訓練なんてしてないっての。
「だよなあー」
第一、真夏の輝く太陽の下、ただでさえ暑いのに、体の半分は他人と密着。
離れようものなら「落ちますよ」の一言とともに体を引き寄せられる。
…これで暑くないわけがない。
「あれーなんかーかわいいものがー、砂の中央でバンザイしてるぞー?」
「何がだ?ぼくには見えないぞ」
有利の視線を追えば、そこにあったのは十メートルほど離れた砂の窪みから顔を覗かせた――パンダの姿。
「………は?」
その余りにもあり得ない事実に思わずそんな声をあげれば、すぐ前を歩いていた兵が、突如栗毛の馬ごと姿を消した。
続いて有利とヴォルフラムの葦毛も、がくりとバランスを崩して砂の中へと沈む。
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