姫はマのつく王子様!

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突然ですが俺は今、一体どこにいるでしょう?



「あっつ…」



太陽は高く、明るく、強烈で。

そして海水が目に染みる。

つまりはここは海で、そして俺は、また喚ばれちゃったってわけ。

さっきまでとは明らかに違う場所で目を覚ますのも、三度目ともなれば慣れたもの。

――だけど俺が無意識のうちに右手で掴んでいる存在は、いつものことではなかった。



「っと…」



波に流され離れそうになる体を、あわてて引き寄せる。


――そう、体。


俺の隣で同じく海に浮かんでいるのは、ついさっきまで一緒にシーワールドにいたはずの、イトコである越前リョーマだった。



「俺が、腕を掴んでたから…だよな」



そう、だからきっと、一緒にスタツアしちゃったんだ。

初めての体験に気を失ったのか、リョーマはその固く閉じた目を開けようとはしない。

二人並んで海に浮かびながら横目で見た海水に濡れた横顔に、罪悪感が込み上げる。

――とそこに、俺の右足の浮かんでいる方向から、灰色の三角形が近づいてきた。

見覚えのあるその形は、明らかに海のお友達の背ビレで。



「ば、バンドウくん?」



イトコだけでなく無関係な彼までもを巻き込んでしまったのかと、ますます申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

その気持ちから頭を撫でてやろうと伸ばした手に触れたのは、ショーで握手した胸ビレよりも、ずっとザラついたそれ。



「なんだよバンドウくん、どうりで泳ぐの速いわけだわ。だってこれイアン・ソープが使ってる、いわゆる鮫肌水着と同じじゃん」



…ん?鮫肌?


一瞬、相手と目があった。

――鮫の目だった。



「バンドウくん、じゃなくて……ジローくんっ!?」



その事実に思わずテンパる俺。

とそこに…



「陛下ーっ!!ご無事で……ああッ」



遠くから聞き覚えのある声が届き、そちらに目をやれば手漕ぎオールが大回転な、豪華な小舟が猛スピードでこちらへと向かって来ていた。

それに乗っているのは、これまた見覚えのあるあの二人。



「おのれ、魚の分際で陛下になんということをーっ!」



鮫を相手に名を名乗れとか言い出しそうな形相で、フォンクライスト卿ギュンターはオールを振り回した。

一方その隣、ギリギリまで身を乗り出して両腕をこちらへと伸ばすウェラー卿は、苦笑まじりののどかな顔だ。


そりゃあないよコンラッド、この世界で唯一のキャッチボールの相手が、海のモズクになろうとしてるんだぞ。

待てよ、モズクじゃなくて藻屑だったか?



「落ち着けギュンター。そんなに櫂を振り回すと、陛下の頭に……おや?」



とそこで、コンラッドは俺の隣に浮かぶリョーマに目をとめる。

その目は驚きに見開き、そして固まっている。

そりゃあそうだろう、ここじゃ日本人の髪の色はかなり珍しい。

なのに俺以外にもう一人、黒髪が現れたんだから。

きっとリョーマが目を開けば、もっと驚いた顔をするんだろうな。

ギュンターなんか喜びに泣き叫びそうだ。

……ちなみにそのギュンターは、まだ鮫を相手にするのに必死でリョーマの存在には気付いていない。

でもとにかく、



「まずは舟にあげてよ、コンラッド」



「え…あ、ああ。そうでしたね」



俺の言葉にハッとしたあと、伸ばした腕に力を込めるコンラッド。

まずリョーマの体を押し上げたあと、やっとのことで俺もボートの上に非難。

そしてボートの上で一息ついた後、名付け親との久しぶりの会話をしていると…



「ぎゃああああああ」



鮫をオールで叩いていたギュンターが、なんとも表現しがたい悲鳴をあげた。

ジローくんが仲間を呼んだらしい。



「あーあ、あいつら人懐こいから」



その現状把握は本当に正しいのだろうか。










こちらの世界は三度目だが、またしても見覚えのない場所に落ちてしまったようだ。

浜辺から歩いてすぐのご用邸は、これまでに案内された二つの城とは明らかに建築様式が異なっている。



「俺よりさ、先にリョーマを…」



衣装係の女の子にお礼を言って服を受け取りつつ、コンラッドにまさかの姫抱きをされているリョーマを振り返る。

ちなみにあの後、リョーマをやっと目に止めたギュンターが予想通り騒ぎ、俺のせいで一緒にスタツアしてきたイトコだということは説明してある。



「大丈夫、今用意させてるから」



何しろ急なお客様だからね、と苦笑するコンラッドに促され、俺は着替え始める。


――とそこへ、遠くから苦情の声が近づいてきた。

突進状態の靴音と合わせると、誰かが怒鳴り込みにきたようだ。





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