短編
□ふれんど'S
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「どうかされたんですか?」
立海大付属中学、下駄箱。
朝練が終わり、それぞれの教室へと向かおうという所で尋ねたのは、眼鏡をかけた少年、柳生比呂士。
「何がじゃ?」
一方、尋ねられた方の少年――柳生のダブルスパートナーである仁王雅治は、その言葉に首を傾げながら相方を振り返った。
「いえ…今日はなんだか機嫌が良いみたいなので」
「…ほーか?」
「ええ」
首を傾げて聞き返す仁王に、クイッと眼鏡を押し上げながら頷く柳生。
そんな柳生に対し、仁王は少し考えるような素振りを見せたあと、ニッと笑って見せた。
「……ま、お前さんも楽しみにしときんしゃい。放課後にでも面白いことが起こるけぇ」
「…また切原くんや真田くんをからかったんじゃないでしょうね」
その笑みと言葉に、思わず眉間にシワを寄せる柳生。
コート場の詐欺師とまで言われる仁王は、部活の仲間達をよくからかっていたのだ。
「そうじゃなかよ。…もっとええことじゃ」
しかし仁王は、それにあっさりと首を振る。
そしてその言葉にならなんだと首を傾げた柳生に対し、ニヤリと、笑って見せた。
「……?」
――もっと、な。
そして時は過ぎ、放課後。
日が暮れ、男子テニス部の活動も終わりに近づいた頃。
「ここ、かあ…」
立海大付属中学の正門前に、一人の少年の姿があった。
「「「ありがとうございました!」」」
テニスコートに一斉に響く、少年達の声。
立海大付属中学男子テニス部はその活動を終え、部員達はそれぞれ帰り支度のために部室へと向かいだした。
「腹減ったー!あ、仁王先輩!帰りどっか寄って帰りましょーよ」
自分の少し前を行く先輩に駆け寄り、ニコニコと笑いかけるのは、切原赤也。
二年生にしてレギュラーという、実力ある少年である。
「お、良いじゃん行こーぜ仁王!」
そこにやって来たのは、仁王の同級生である丸井ブン太。
今さらではあるがこの三人、赤に銀にワカメのようにうねった黒。
なんともまあ、派手な頭である。
「スマンが今日は俺はパスじゃ」
「「えーっ!?」」
仁王の言葉に、驚いたような、そして不満げな声が重なる。
普段なら頷いているためか、それを聞き付けた他のレギュラー達も寄ってきた。
「珍しいね、仁王が誘いを断るなんて」
そう言って微笑するのは、どこか儚げな印象のする少年――幸村精市。
このテニス部のレギュラーであり、部長でもある。
「明日は雨だな」
そしてそんな彼の隣で驚いたような表情をするのは、丸井のダブルスパートナーであるジャッカル桑田。
「失礼なこと言うんはやめんしゃい」
そう言って、ジャッカルの頭をペシリと軽く叩いたあと、柳生を目で探す仁王。
そして相方を見つければ、その名を呼びつつそちらへと駆け寄って行った。
「柳生!」
「…はい?」
「今日、このあと暇か?」
「ええ、暇ですが…」
先ほどまで顔を洗っていたため、タオルで顔を拭きつつ答える柳生。
それがどうかしたかと続けようとすれば、それを遮って仁王が話だす。
「じゃあちょっと待っときんしゃい。…もうすぐ来るはずじゃけえ」
「は、い…?」
仁王の言葉に首を傾げつつ、とりあえず頷く柳生。
そしてそんな彼らの後ろで、赤也の不思議そうな声があがった。
「あれ…?」
「どうした赤也」
テニスコートの外を見つめて首を傾げた赤也に話しかけたのは、近くにいた少年、柳蓮二。
参謀と呼ばれ、データテニスを得意とする少年である。
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