短編

□心の強さ
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「蝦蛄サボテン――美しい眺め、かあ…」



ぽつり。

突然呟かれた言葉は、先ほどまでシャーペンの紙を擦る音と、そして教科書をめくる音しかしなかった室内に、思いの外大きく響いた。


ここは、呟いた少年、沢田綱吉の部屋の中。

もう一人の少年―越前リョーマと彼は幼なじみであり、偶然にもテスト期間の被った二人は、昨日からここで勉強会を開いていた。



「シャコ…サボテン?なにそれ。っていうか、勉強もしないで何やってるわけ?」



そう尋ねたリョーマの手元には、国語の教科書。

苦手な教科であるそれをやっていたリョーマは、しかし一方勉強に関係ないモノを手にした綱吉に対し、呆れたような視線をよこす。



「誕生花だよ、誕生花の花言葉。リョーマの誕生日の12月24日は、“蝦蛄サボテン”」



「…花言葉?」



しかしそんなことは気にせず、にこやかに返した綱吉。

どうも彼の家庭教師と名乗る赤ん坊が来てから、ある程度のことには動じなくなった幼なじみに内心ため息をつきつつ、リョーマも気になるのか教科書を置いてそちらに身を乗り出す。

綱吉はリョーマが興味を示してくれたことが嬉しかったのか、それに対し笑顔であるページを開いて見せる。



「うん。今日図書館で借りてきたんだけどね…面白いんだよ」



――9月9日 【花縮砂-ハナシュクシャ-】あなたを信頼します



「9月9日って…だれ?」



そこに写っていたのは、白く綺麗な花で。

一種それに見惚れるも、返ってきた言葉に、リョーマは思わず吹き出しそうになった。



「獄寺くん」



「…っ……!」



ハナシュクシャの花言葉は、“あなたを信頼します”。

それは、獄寺という少年が、綱吉に対して常日頃から全身で表している言葉だった。



「ね?なんかまんまだったから…笑っちゃったよ」



リョーマの様子を見つつ、クスクスと笑う綱吉。

今彼の頭には、今日も学校で会っていた獄寺の姿が浮かんでいるのだろう。



「で、リボーンが…これ」



10月13日 【サルビア-緋衣草-】燃える思い、知恵



「こっちもぴったりでしょ?」



そう言って綱吉が開いたページに載っていたのは、花言葉通りの真っ赤な色をした花。

その花言葉を指差して、綱吉は悪戯っぽく笑みを浮かべる。



「…確かに。その、“緋衣草”って言うのは?」



リョーマはそれに頷いた後、そのページにあるもう一つの名前を指差した。



「えっとね…和名、だって。」



その答えに納得したのかしていないのか。

よく分からない返事をした後、ふと顔を上げてリョーマは尋ねる。



「ふうん…じゃあ綱吉のは?」



「俺?」



しかし問われた方はと言えば、予期していなかったのか、キョトンとした表情になり。



「…普通自分のを最初に調べるもんじゃない?」



そんな綱吉に、リョーマは呆れたという表情を、包み隠さずに表した。



「そうかなあ…みんなのを探すのしか思い付かなかった」



あはは、と言って誤魔化すように笑う綱吉。

そんな彼に、リョーマは苦笑するしかない。



「…ま、綱吉らしいけどね」



10月14日 【ユウゼンギク-友禅菊-】恋の思い出



「「…………」」



そして開いたページの花言葉に、思わず無言になる二人。

その写真に写る花は可愛らしく、真っ直ぐに伸びる茎は綱吉らしいと言えなくもないが――先ほどまでピッタリなモノばかり続いていたので、なんだか拍子抜けである。



「あ、でも、こっちの方が綱吉っぽい」



そう言ってリョーマが指差した先には、小さく可愛らしい花の写真。



「9月18日――ゲンノショウコ?」



「そ。花言葉は――」








(誰よりも真っ直ぐな)(君だから)

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