短編

□サイコーの殺し文句
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「おーい宍戸ー、廊下走んじゃねーぞー」



「スンマセン急いでるんでっ!」



夏休みを目前に控えた、ある日の放課後。

息を切らせ、荷物を持って廊下を全力疾走する少年――その名を、宍戸亮。

氷帝学園高等部の三年生であり、あの男子テニス部のレギュラーである。


そんな彼がこんなにも必死で走っているのは、教師に呼び出されたせいで部活に遅れているからである。



「っ悪い!遅れた!」



そしてやっとたどり着いた部室の扉をバタンと開ければ、



「……跡部?」



そこには、テニス部部長、跡部景吾の姿しかなかった。



「今日は休みだ」



「……は?」



流れる汗をぬぐいながら、その素っ気ない言葉に思わずぽかんとしてしまう宍戸。

しかしそれに対し、跡部は目の前のノートパソコン(ちなみに流石というか、最先端のものである)から目を離しもせずに続ける。



「今日は急遽部活は休み。お前以外は皆帰った」



「…マジかよ」



はあ〜、と大きく息を吐きながら思わずその場に座り込む宍戸。

それならば先ほどまでの自分の全力疾走はなんだったというのか。

そう、部活に遅れているからと焦っていた自分に思わず後悔していれば、ふとカバンに入れた携帯電話を取り出す。

見ればそこには、忍足からのメールが入っていて。



「………」



教師の話を聞いていたため気付かなかったが、それは部活休みの連絡のメールだった。


それを見てまたしても脱力してしまう宍戸。

しかし直ぐにメールの新規作成ボタンを押せば、文字を打ちながら部室へと入って行き、跡部の前の椅子へと座る。

今日は幼なじみの手料理をご馳走になることになっており、早く帰れることになったため準備を手伝える、という旨をメールで伝えるためである。



「…………」



「…………」



どちらも口を開こうとはせず、その場に聞こえるのは跡部のキーボードを打つ軽やかな音と、宍戸の携帯電話のボタンを押す決して速いとは言えない音のみ。



「…ハッ遅えな」



「っうるせえな!お前らと一緒にすんな!」



パソコンの画面を見つめたまま跡部が鼻で笑えば、恥ずかしいのか顔を赤らめて反論する宍戸。



「…お前、ら?」



その言葉に画面から顔をあげ、首を傾げる跡部。

宍戸はメールの作成をあきらめたのか、ため息をついて答える。



「お前とリョーマのことだ」




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