企画
□弱さを持つ彼らだから
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――それは、ヴァリアーがリング争奪戦に敗れる、約四年前のある日のこと。
「…ム。何そわそわしてるんだい?ベル」
ヴァリアーの幹部達の居住区の中心であるそこにやってきたマーモンは、ふかふかのソファーに座り落ち着きなく貧乏揺すりをしていたベルフェゴールを見て首を傾げた。
普段は余裕な状態の多いこの少年が、いらいらしつつもこの場にとどまっていることが不思議だったのである。
プリンスザリッパーこと我が儘王子は自分の気持ちに正直なのだ。
「マーモンお前知らねーの?今日あいつらの初任務だぜ?」
“あいつら”。
その単語が示すのは、彼のお気に入りの二人の兄弟達。
いや、彼のみならず、幹部達には多少なりとも構われている少年たち――不二周助と、不二裕太のことである。
彼らは今から約五年前、それぞれ六歳と5歳の時にヴァリアーに籍を置くことになった。
しかし元はただの一般人であった彼らは、子どもだったこともあり―とはいえベルフェゴールのような例外もいるが―今まで訓練ばかりで任務に出たことはなかった。
そんな彼らが今日、初めて任務にでたのだ。
ボンゴレファミリー所属、特殊暗殺部隊ヴァリアーの任務に。
「ああ…だから今日はボスもあんまり機嫌が良くないんだ」
朝見かけた我らがボスは、とてもじゃないが機嫌が良いとはいえない様子であった。
しかしそれも、切り裂き王子の言葉を聞けば納得である。
つまりボスは、彼ら二人が心配だったのだろう。
この、目の前の少年と同じで。
「(ホント…五年前から随分変わったよね、ボスも…僕らも)」
過去、ヴァリアーの幹部達が揃って誰かのことをこうも心配することはなかっただろう。
それが今はどうか。
すぐ自分の部屋へと戻ろうと思っていたのに、マーモンまでもがここで彼らの帰りを待とうという気持ちになっている。
「ボスの機嫌が悪いのなんていつものことじゃん。…ま、ボスの過保護もだけど」
「あなただって人のこと言えないでしょ、ベルちゃん」
「うっせーオカマ」
そう言って奥から紅茶片手に出てきたのはルッスーリア。
奥には簡単なキッチンが備え付けてあるのだ。
とはいえそこを利用するのは彼(彼女?)か不二兄弟くらいのものだが。
「にしても、君がそんな心配なんて珍しいね。ベルにとっては殺しなんて最初から何とも思わなかっただろうに」
初めから“殺し”に対し何の罪悪感も恐怖も抱いていない彼が、不二兄弟に対しそんな心配をするなどマーモンには不思議だった。
むしろ彼ならば、そんな感情を抱き悩む者に対し無神経に、いやむしろ無邪気に「なぜ」とまで言ってしまいそうなのに。
しかしそれは、マーモンの勘違いであることを彼はすぐに知る。
「そんなんじゃねーよ。だって王子のおもちゃがなくなったら困るし」
「………ああ、怪我(そっち)の心配」
拗ねたような声と表情はまさに年相応。
しかしその内容は年相応とは言えず、それを聞いた中身は大人、見た目は赤ん坊なマーモンは、ため息をついてそう返した。
全く持って見た目に伴わない変な空間である。
「そういえば、もう一人の過保護はどこだい?」
もう一人の過保護。
それは、ザンザスと共に幼い兄弟を連れ帰ってきた一人である、銀髪の剣士。
「スクアーロなら二人の任務について行ってるわよ」
その問いに答えたのは、この部屋にいる最後の一人、三人の中で最も外見と口から出る言葉に違和感のある人間、ルッスーリアだった。
「……さすが過保護だね。ボスもスクアーロも」
おそらくスクアーロもついて行くつもりだったのだろうが、その同行はボスの命令でもあるのだろう。
スクアーロがいれば何があっても大丈夫だろうから。
そこまで考えて、マーモンはうんざりしたようにそう呟き、ため息を吐いた。
――とそこに、こちらに近づいてくる気配。
「…お。噂をすればじゃん」
職業柄か、足音を消し気配もけしてハッキリとはしていないそれを、しかしその場にいた三人は当たり前のように敏感に感じ取る。
そしてベルフェゴールはそう言ってぴょんとソファーに座り直し、入り口へと目を向けて。
そこに彼の姿が見えた瞬間、己の疑問を口にした。
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