素数的進化論。
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「……にしてもあれ、放っとってええん?」
どう見てもあの様子は綱吉に依存していた。
どちらか一方に過度に依存するそれは、友人関係とはあまり呼ばないだろう。
「うーん…どうしようか困ってるんだよね」
そう言って苦笑をこぼす綱吉。
今まで友人らしい友人のいなかっただろう彼にとって、おそらく自分が初めての友人なのだろう。
そんな人間に対しまさかあまり近寄らないでくれとは言えないし、しかしおそらく彼はぼかして言っても理解はしないだろう。
何より未だ某家庭教師様や某パイナップル頭の守護者などに度々言われるように、沢田綱吉という人間は基本的に甘いのだ。
それゆえに、対応することに戸惑う。
そして何より――分かるのだ。
過去、ダメツナと言われていた時代。
鈴木と違い友人はいたものの、しかし自身を否定され、また自身もそれを認めていたあの頃の辛さを、確かに綱吉は知っているのだ。
だがそれと同時に、このままではいけないことも分かっている。
綱吉のためにも、鈴木のためにも。
なぜなら今の綱吉は、悪い意味で目立ってしまっているのだから。
「ああいう奴は一度痛い目見ないと分かんねえだろ」
だから放っておけと。
わざわざ彼のために綱吉が傷付く必要はないのだと。
綱吉を見ることなく、グラウンドに顔を向けてそう言った優しき幼なじみに、綱吉は微笑をこぼし。
「…そうかな」
そう言って、宍戸の背中に自身の背中を合わせて寄りかかった。
――少年は浮かれていた。
その足取りからも分かるように。
――少年は嬉しかった。
その口元に浮かぶ笑みからも分かるように。
「ありがとう」
――少年は覚えている。
“彼”に初めて感謝された時のことを。
「鈴木くん」
――少年は待っている。
“彼”が自分を頼ってくれるのを。
初めは、小さなきっかけだった。
初めは、小さな喜びだった。
やがてそれは、歪んでいってしまったけれど。
――少年の、気付かぬうちに。
友達――なんて素敵な言葉だろう。
「(僕は、綱吉くんの友達だから)」
そう考えると、色のなかった世界の全てが色付いて見えてくる。
「(友達の、綱吉くんのために)」
そう考えると、何でもできるような気がしてくる。
「(綱吉くんのために――)」
―とそこで、誰かにぶつかりよろける鈴木。
「す、すみません…」
彼はそう小さく謝って、下を向きぶつかった人物の隣をすり抜けようとする。
しかし…
「……っ!」
ガシリ、腕を掴まれ、思わず前につんのめる体。
そこでようやく鈴木が相手の顔を見上げれば――
「ちょっとお前、つきあえよ」
そこにいたのは、いつかに綱吉を呼び出そうとしていた男子生徒だった。
「ひうっ…!」
「おいおい、弱っちいなあ」
人のめったにやってこない空き教室。
そこにいるのは、複数の男子生徒達と―そして、彼らに囲まれたその中心。
そこに座り込んでいたのは、一人の男子生徒―鈴木だった。
すでに何度か殴られたのだろう、頬を赤く腫らし、涙を浮かべている彼の表情は、恐怖の色に染まっている。
「ど……て…」
「ああ!?」
「言いたいことがあるならちゃんと話してくださーい」
カタカタと震えながらか細く呟いた言葉。
それに気付いた男子生徒達は、そう言って鈴木の髪の毛を乱暴に掴み、グイッと無理やり顔を上げさせた。
「ど…どう、して…こんな…!」
苦しげな顔をしながら、しかしもう一度今度は先ほどよりも大きめな声で話す鈴木。
それは、彼らにここへ連れてこられてから、ずっと繰り返し繰り返し考えていたこと。
――どうして自分がこんなめに?
だって僕は、何もしていないのに。
「なん、で…!」
なぜ自分がこんなめにあわなければいけないのか。
しかしその考えても考えても分からない問いかけに、彼を囲んだ男子生徒たちは至極簡単に答えた。
「はあ?何言ってんだお前」
「だって君、あの“沢田綱吉くん”のお友達なんだろ?」
「こないだは俺らの邪魔、してくれたしなあ?」
「そん、な…」
そう言って楽しげに笑う彼らに、これから起こることを想像して青ざめる顔。
そして振りかぶられた拳に、鈴木はぎゅっと両目をつぶり――
「何、してるの?」
頬に衝撃がくる前に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
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