素数的進化論。

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「人虐めといてサボりかよ!」



「うっわ何それサイテー」



ゲラゲラと下品に笑う者、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる者。

しかしそのどれもに“苛め”というものへの嫌悪感は感じられず。

つまりは彼らにとってのそれは、所詮は他人事であり綱吉に絡む口実でしかないのだ。



「オイてめぇ聞いてんのか!?」



しかし一向に反応しない綱吉に、苛立ったように声を荒げる少年。

彼らにとって綱吉は自分たちより下、つまりは劣る人間という認識であり、自分たちが無視するならともかく、無視されるなど許されないことなのだ。



「…俺のはやむ無き理由のため仕方なくの自主休講だよ。…そういう君たちはサボりじゃないわけ?」



はあ、とあからさまにため息をつき、ゆっくりと少年たちを見る綱吉。

その声や態度、そして瞳までもが雄弁に語っていた。

――めんどくさい、と。



「んだとぉ!?」



「俺らはサボってるてめーと違って自習なんだよ、じ、しゅ、う!」



その態度が気にくわなかったのか、目付きを鋭くして綱吉を睨みつける少年。

また、バカにしたように見る者もいるが、しかし綱吉はそんな彼らの様子など気にした風もなく、淡々と火に油を注ぐ。



「ふうん…、自習って屋上でするものだとは初耳だけど」



「っうるせえな、黙れ!」



沸点が低いのか、それともサボりだと揶揄されたのが気に触ったのか。

そう一人が怒鳴りつければ、どんどんと荒っぽくなる雰囲気。



「ほら立てよ!」



「いいねー、俺ストレス溜まってたんだわ」



ぐい、と一人が綱吉の胸ぐらを掴んで無理やり立ち上がらせると、周りは首や手首を回しながらニヤニヤと笑いだす。



「いいサンドバックってか?」



「ははっやっちまおーぜ!」



そして始まる、暴力。

多勢に無勢、一人の少年を数人で囲んで行われるそれは、所詮はリンチと言われるもので。

高校生男子と言えど一般人、しかも見た所特に筋肉があるわけでも、ましてや喧嘩慣れしてもいない様子の彼ら。

そんな少年たちから繰り出される暴力は、他の者ならともかくイタリアンマフィアのボスであり過去様々な戦いに否応なしに挑んできた綱吉にとっては、避けることなど造作もない。


……が、しかし。



「わー、痛そう」



そんな棒読みの声の言う通り、“沢田綱吉”は少年たちからの暴力を、一方的に受けていた。

とはいえそれは、“沢田綱吉”だと思い込まされた―少年たちの一人であったが。



「自業自得ですよ」



そう言って、クフフ、という独特の笑いをこぼすのは、どこか南国果実を思わせる髪型をした少年――六道骸。

その彼の見る先には、そうとは知らず自身の仲間へと暴力を振るう少年たちの姿が。

そしてそんな彼の隣には、



「分かってるよ」



少年たちが暴力を振るっているはずの、沢田綱吉の姿があった。



「おや。そうでしたか?僕はてっきり」



そう言って、綱吉の言葉にたいして大袈裟に驚いたような仕草をして見せる骸。



「………」



そんな骸に、綱吉は無言で鋭い視線を浴びせかける。



「…貴方は変わりませんね。相も変わらず、甘い」



「うるさいな」



「誉めているんですよ?」



クフフ、と変な笑い声をあげつつ、しかし張り付けたような薄っぺらなそれ。

そんな笑みを浮かべたまま、骸はリンチを続ける少年達に視線をやりつつ言葉を続ける。



「人は、良くも悪くも変わっていくものだ。しかし貴方は、平凡な毎日から殺伐とした世界に足を踏み入れて尚変わらない」



その、人間の『悪意』を――人間の汚い所をまさに表したかのような光景を見つめ。



「果たして君はこの先今以上の地獄に足を踏み入れ、どう変わっていくのか――僕にはとても、興味深い」



そして、薄っぺらで歪んだ笑みを、より一層深めた。



「…悪趣味だな」



「クフフ、誉め言葉として受け取っておきますよ」



そんな骸を横目に、ため息と共に吐き出された言葉。

心底やれやれとした様子の読み取れるそれを、しかし骸はサラリとかわす。


――と。

呆れたような視線を骸へと送っていた綱吉は、そこでふと目の前の光景が僅かに変わったことに気付く。


それにそちらへ視線を戻せば、いつの間にやらリンチをされる少年―つまりは骸の幻術によって綱吉と認識された少年―が、先ほどとは代わっていた。

ちなみに先ほどまでの少年は、既に気絶していて彼らの直ぐそばに倒れているのだが――彼に気付く者は、いない。





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