銀遊記

□第3訓
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時は少し遡り。



「猫…黒猫ォォォォオ!!黒猫狩りじゃあぁぁああ!」



ここ、歌舞伎町では、1人のチャイナ娘が叫んでいた。



「待ちなせえ」



「ぐえっ!」



と、そのまま走りだそうとした神楽の襟を掴んで止める沖田。

それにより神楽の首が勢いよく締まり、神楽はカエルが潰れたような声をあげた。



「ゲホゲホッ……ゴホッ……っ何するネこの税金泥棒!!」



「この街に黒猫がどれだけいると思ってるんでぃ。第一まだこの街にいるとも限らねえってのに」



ゲホゲホと咳き込んだあと、その目に涙を浮かべ、キッと沖田を睨み付ける神楽。

それに対し、沖田は特に気にした風もなくそう返し。

二人のそんなやりとりには馴れているのか、その隣にいた眼鏡――もとい新八も、沖田の言葉に頷いた。



「そうですね、そんなに簡単に見つかるわけ…」



「にゃあーお」



「「「……………」」」



まるで新八の台詞を遮るかのように突如聞こえてきた、間延びしたような鳴き声。

その声に三人顔を見合せ、聞こえてきた方へと視線を向けると――



「黒猫ォォォォオ!?」




そこには、今まさに話題に登っていた、真っ黒な猫の姿があった。



「まぁてこらあっ!」



ぐわっと目を見開き、物凄い形相で黒猫へと向かっていく神楽。

しかし一方の猫は特に慌てた様子もなく。

余裕たっぷりの動作でひらりとその身を翻し。


――そしてそのまま、三人と黒猫の、奇妙な追いかけっこが始まった。















「ホアチャアあア!!」




ズシャアアッと、物凄く痛そうな見事なほどのスライディング音を響かせて地面を滑る神楽。

つい先ほどやっとこさ猫に追い付き、あろうことか顔を洗うという余裕を見せた猫に対し、いつもの掛け声と共に顔面からスライディングをかましたのである。


ちなみに一方の猫はと言えば、それをヒラリとかわし、



「にゃー」



そのまま神楽の頭の上へと降り立ち、まるで「大したことないな」と言わんばかりに鳴き声をあげた。



「よーしチャイナ、そのままでいなせぇ」



と、そこに現れたのは、息も絶え絶えな新八と、その手に蝉等を掴まえるための虫取網を持った沖田の二人。

そして沖田は、その整った顔にサディスティックな笑みを浮かべながら、神楽――の上の猫へとジリジリと近づいていく。



「こいつで(てめえごと)掴まえて…」



「ふん!」



――リンッ



しかしあと少し、といった所で、鼻息と共にがばりと上半身を持ち上げた神楽。

それに合わせ、猫は落とされてはかなわないと鈴の音を響かせながらその身を宙へと踊らせて。

そしてストン、と向こう側の道に降り立った。



「何してやがんでぃ!せっかく俺がこいつ(網)で猫を捕獲する所だったのに…」



その行動に、ああん?とドスの効いた声で神楽に詰め寄る沖田。

流石、チンピラ警察だのサディスティック星の王子だのと言われているだけあり、中々に怖い。

しかし、一方の神楽とて、それに黙って怯えるたちではなかった。



「何してやがるはこっちの台詞アル!!お前の本心見え見えアルね!私ごとって何ヨこの変態!」



臆することなくグワリと沖田の胸ぐらを掴み、こちらもこちらでああん?と睨み返し。

その様子は、まるでなどこかの天然パーマとマヨラーのごときやりとりであった。





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