短編
□close,but no cigar
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「ひっじかったさ〜ん!」
「あァ!?」
その人は、ギロリとこちらへ眼を向けた。
瞳孔の開いた目が、少し恐ろしい。
「局長が呼んでますよ、って言いに来たんですけど…振り返るだけにいちいち迫力有りすぎですよ。正直言って、無駄に怖いです。」
負けじと相手を睨み付けても、敵わないことは知っている。
それでも。
逸らしたくないのは、女の意地。
「…るせェ」
眉間に皺寄せ、さらに不機嫌な顔を作るから、チクリと胸が痛くなる。
あぁ、また。どうしてだろう。
「まったく…声をかける度にそんな嫌な顔されるこっちの身にもなってくださいよ。そんなんだから…」
最近心臓病の気が…と不満をぶちまけようとしたのだが。
その人は遮るように、大きな溜め息を吐いた。
そして一言。
“Close,but no cigar…”
と呟いた。
「へ?煙草…?それならもう口にくわえて…」
「違ェよバカ。」
それは一瞬の出来事。
その人は軽く鼻で笑ったあと、くわえ煙草を外して。
「――!」
小さな音をたててキスをした。
「ひっ土方さんっ!?」
「“close,but no cigar”…テメェが嫌なんじゃねェよ。…テメェを見るだけで緊張するのが嫌なんだよ…」
その人は顔を背けようとしたのだが、色づいた頬は見逃さなかった。
結局煙草の意味は教えて貰えなかったけど。
口から心臓が飛び出そうなくらい暴れまわる鼓動を感じてようやく悟った。
あぁ、これが恋なのかな、と。
end
close,but no cigar
〜惜しいけどハズレ〜